研究課題/領域番号 |
24540317
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
島津 佳弘 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (70235612)
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キーワード | ジョセフソン接合 / 量子ビット / 超伝導デバイス / 量子コンピュータ / メゾスコピック系 |
研究概要 |
前年度までに、磁束量子ビットとDC-SQUIDに付随するSQUIDプラズマモードの結合によって生じる高次サイドバンド遷移とサイドバンドラビ振動を観測し、実験結果の解析を行ってきたが、平成25年度には、部分的に改良を加えた試料においてこれらを測定した。試料の主な改良点は、エネルギーギャップを小さくした点と、DC-SQUIDの臨界電流を増加し、量子ビットとDC-SQUIDの結合度を強めた点である。エネルギーギャップが、前回の試料では15GHz以上と大きな値であったが、新しい試料では、ジョセフソン接合面積などのパラメータを修正することにより、約5GHzというほぼ目的とした値のエネルギーギャップが得られた。エネルギーギャップを小さくしたことによって量子ビットの制御性とエネルギー緩和時間が向上することが期待できる。サイドバンド遷移における光子数変化をMとするとき、前回の試料では、M=1、2の遷移のみ明確に観測されたが、新しい試料では3以上のMをもつ遷移が観測された。このことは、予期したとおり、量子ビットとDC-SQUIDの結合度が強まっていることを反映していると考えられる。結合系のハミルトニアンを使って、高次サイドバンド遷移の遷移行列要素の計算を行い、3以上のMをもつ遷移が出現することと矛盾しない計算結果が得られた。ただし、結合定数を実験的に正確に評価することが今後の実験の課題である。このような高次サイドバンド遷移は、量子ビットとDC-SQUIDの間の強い量子エンタングルメントの存在を示すものである。この遷移を利用して、量子情報処理に応用可能な量子状態制御を行うことも可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁束量子ビットとDC-SQUIDに付随するSQUIDプラズマモードの結合系における量子状態の操作として、高次サイドバンド遷移に関する実験的研究を進めてきた。2個以上の光子数変化を伴う遷移は過去に報告されていなかったものであり、これまでに、3個または4個の光子数変化を伴う遷移までが観測できたことと、2個の試料について測定し、再現性を確認できたことは、大きな成果であると考えられる。しかしながら、実験結果の理論的解釈にはまだ問題点が残されている。特に、平成25年度に作製した試料でみられたサイドバンドに伴うラビ振動は、遷移の起源の同定も確実ではないので、今後、更に詳細なデータをとり、それに基づいて、遷移の起源の同定と、ラビ振動周波数の理論的説明に向けて解析を進める。2個の試料における高次サイドバンド遷移の測定結果の差異は、主として量子ビットとDC-SQUIDの結合度の差に起因するものと考えられることから、この結合系のサイドバンド遷移における結合度の重要性を実験的に示すことができた。 量子ビットの量子コヒーレンス時間の向上も、目的の一つであったが、これに関しては、エネルギーギャップを前回の試料より大幅に小さくすることで、改善がみられることを期待した。新しい試料では、約5GHzというほぼ目的とした値のエネルギーギャップが得られたが、これまでの実験結果では、コヒーレンス時間の向上はまだみられていない。現在までの実験時間が十分ではないので、今後、バイアス電流などの条件を最適化することで、より長いコヒーレンス時間が得られる可能性はある。コヒーレンス時間が短いことの主な原因として、振動子モードの熱励起によって生じるフォトンノイズの問題が考えられる。今後、この影響を低減した試料を作り、コヒーレンス時間の向上をめざす。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に作製した試料で、3以上のM(光子数変化)を伴う高次サイドバンド遷移と、2つの周波数におけるラビ振動が観測されたが、これらの測定結果の理論的考察が、今後の重要な課題である。ラビ振動については、前回の試料では、M=0とM=±1の遷移についてのものと解釈することができたが、今回の試料では、測定結果は、M=0とM=-2の遷移に伴うものであることを示唆している。しかしながら、遷移行列要素の計算結果とラビ振動周波数等の実験結果を比べると、定量的一致がよくない。これまでの測定結果を十分に説明するために、今後、印加マイクロ波周波数とマイクロ波強度の関数として、ラビ振動と分光ピークを詳細に測定し、その結果を基に、更に解析を進めることを予定している。また、理論解析において必要となる量子ビットとDC-SQUIDの結合度を推定するための実験データを得る。光子数分布と、エネルギー緩和時間、位相緩和時間などのパラメータを使って、測定された高次サイドバンド遷移の分光曲線のシミュレーションも実施する。 サイドバンド遷移を使って更に複雑な量子状態制御を行うためにも、量子ビットのコヒーレンス時間を延ばすことが必要である。これまでに調べてきた系では、量子ビットと結合した振動子モードの熱励起が顕著であり、これがフォトンノイズの原因となってコヒーレンスを抑制する効果が強いと考えられる。この影響を抑えるためには、振動子モードのエネルギーを熱エネルギーより十分に大きくすればよいので、そのような状況にある試料を設計・作製し、実験により、コヒーレンス時間の向上を確認する。 さらに、振動子モードをコヒーレントに励起した場合の高次サイドバンド遷移の分光測定も実施し、熱励起の場合と比較し考察を行う。
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