研究課題/領域番号 |
24540318
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上羽 牧夫 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30183213)
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キーワード | ステップの蛇行 / パターン形成 / 櫛状パターン / シリコン / ファイズフィールドモデル / 格子モデル |
研究概要 |
本研究の目的は,結晶成長におけるパターン形成や対称性の破れの現象において,非線形性とゆらぎの競合が果たす役割を解明することである.とくに2013年度は,(A)粒子源誘導による原子ステップの櫛状成長におけるパターンの粗大化と周期決定の機構,および(B)結晶化でのゆらぎや温度の周期的変動によるによるホモカイラル状態出現の可能性について研究した. (A) Si表面へのGa蒸着中に発見された櫛形ステップパターンを説明する線状粒子源が移動する格子モデルを発展させ,結晶の異方性とゆらぎを正しく取り入れたフェーズフィールドモデルを作りあげ,数値解析および理論的検討を行った.格子モデルでは不可能であった異方性とゆらぎを定量的に制御し,理論との比較検討を行った.ゆらぎの強さに対数的に依存してパターン周期が短くなるという,きわめて興味深い現象を見出した.これは次のような粗大化の機構を示唆する.初期ゆらぎの不安定化によって始まった櫛状突起のの指数関数的成長で粗大化が進行し,優先的に成長した突起が粒子源に追い付いくことが周期を決定する.また異なった粒子源速度に対し,同一の周期が実現することも見出され,以前に解析的に研究されていたチャンネル中での定常成長とこのモデルとの関係,とくに不安定なモードが粒子源によって安定化されることが明らかになった. (B) ゆらぎの効果を調べるために確率的な時間発展をするモデルを作り,ゆらぎだけでホモカイラル状態が出現しうるかどうかを調べた.すでにモンテカルロシミュレーションなどでは,非線形効果がない時,ホモカイラル状態の出現に必要な時間が体系のサイズに比例することを示唆するデータはあったが,このモデルの理論的な解析によってそれを定量的に検証することができた.これを発展させて,核生成が存在する場合についても検討し,多くの場合ゆらぎによる機構が有効でなくなることも見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移動する粒子源を持つフェーズフィールドモデルに結晶異方性や保存場(粒子の濃度場)のゆらぎを物理的に正確な形で取り入れることができ,定量的なシミュレーションが可能になった.その結果,ゆらぎによる周期選択という予期しなかった結果が得られ,その理論的解析の中から今まで分からなかった粗大化停止の機構が見えてきたことの意義は大きい.周期のゆらぎや粒子源強度に対する依存性が定量的に得られ,粗大化機構が解明され,論文投稿の段階になったので,おおむね順調に進んだと判断している.乱れた非周期的構造と周期構造の相境界の決定,乱れた構造が今までの形態相図で提案されているどの相に対応するものなのか,などは今後の研究課題であるが,得られたデータの相境界の判定が難しくこれからの困難な課題である. カイラリティの問題は,研究時間やマンパワーの確保などに障害があり時間がかかったが,核生成の効果の分析も論文として発表され,成果は着実にあがっている.現在重要な課題として認識しているのは温度の周期的変動によってホモカイラルな状態が実現されるというごく最近の実験を説明することである.単純な反応モデルではラセミ化速度とと結晶速度の温度依存性が逆転していればこれが実現されることがわかったが,この条件はあまり現実的ではない.カイラルクラスターの成長への寄与を考えたモデルで検討しているが,まだ対称性の破れが増幅される仕組みはわかっていない. 以上のように,いくつかの壁があるが,未知の現象を解明するには当然のことで,今までに得られた成果から,研究計画全体として順調に進んでいるといってよい.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究対象とする具体的な系は(A)粒子源誘導による原子ステップの成長と(B)結晶化でのホモカイラル状態出現の機構の検討と考えている. (A) 移動粒子源を持つステップ成長のフェーズフィールドモデルによって数値シミュレーションとその理論的解析を行うことが中心となる.乱れた海藻パターンをもつ非周期的構造と周期構造の相境界の決定や,乱れた構造が今までの形態相図で提案されているどの相に対応するものなのか,などを明らかにするため系統的な数値シミュレーションを行う.このとき現実的な障害となっているのは,システムサイズと計算時間の制限およびパターン分類の判定である.これを解決できない時には課題設定を再検討する. (B) カイラリティの転換がマクロな系においておきるにはカイラルクラスターの結晶化などが不可欠である.確率的なモデルにこのような非線形効果を導入し,ゆらぎとの競合,協力関係を研究する.予備的な検討では,結晶化やクラスターの結合のさいのサイズ依存性が本質的に重要なように思われる.この点を数値シミュレーションをふくむ系統的な研究で明らかにする.また達成度評価で記したように,ごく最近,温度の周期的な変化によって結晶粉砕をすることなくホモカイラルな状態が実現されたという報告が現れたので,このメカニズムを解明することが今後の中心課題となるだろう.もっとも簡単な反応モデルでは現実的な条件では実現しそうもないので,クラスターの成長,溶解を正しく扱う必要がある.そのため数値シミュレーションを行うにもサイズの増大を適切に処理する工夫が必要である.何とか温度の周期的変動で対称性の破れが増幅される仕組みを見出したい.理論的に適切なモデルを立て,それを検証する可能な実験を提案することが重要である.
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次年度の研究費の使用計画 |
計算機(ノートパソコン)の購入を次年度にしたほうがよいと判断したため. 次年度予算と合わせ当初の計画と大きな差は出ない.
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