研究課題/領域番号 |
24540318
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上羽 牧夫 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30183213)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ステップの蛇行 / パターン形成 / 櫛状パターン / シリコン / フェイズフィールドモデル / 格子モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,結晶成長におけるパターン形成や対称性の破れの現象において,非線形性と揺らぎの競合がどのような役割を果たしているかを解明することである.今年度の実績は,具体的には以下の通り. 1.移動する粒子源によって誘導された成長パターン(櫛状,あるいは樹枝状)粗大化機構について,パターン周期がノイズ強度に対数的に依存するという意外な発見から,「枝の競合によって粗大化が進み,枝の先端が粒子源に追い付くことで終焉する」との理解を得た.高速領域と低速領域で周期の速度依存性が反転するが,この特異な現象を以前から知られていた2次元結晶の一方向凝固と関連付けることができた.フェイズフィールドモデルによるここまでの成果をまとめ論文として発表した.さらに,定常状態から粒子源速度を急変させた時の周期の安定性についても興味深いシミュレーション結果を得て,現在解析中である. 2.カイラル結晶化の問題では,ゆらぎを理論的に取り入れられるようにマスター方程式に基づく確率論的なモデル構築し,ゆらぎのみで完全な対称性の破れ現象が実現する条件で,核生成による非線形効果が加わったときの両者の競合を調べた.ゆらぎがなければ系は必ず非カイラルな固定点に達するが,確率論的なモデルでは揺らぎの効果が優って完全なホモカイラル状態が実現しうるとの知見を得た.さらに実験家との協力した研究では,塩素酸ナトリウムで非カイラルな準安定結晶多型を発見し,それが固相変態や溶液媒介変態でカイラル立方晶に変わることを見出した.この準安定結晶がホモカイラル状態の実現に重要な役割を果たす可能性がある. 3.そのほか,ゆらぎによる結晶2次元核生成の起こるサイトが弾性的相互作用によってどのように決まるかなども弾性的格子模型によって検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パターン形成の課題については共同研究者が地理的に離れているという事情もあって進展速度は速いとは言えないが,金沢大学の学生が計算を進めてくれたこともあって,おおむね順調に進んだ.論文の発表に予定よりも時間がかかったが,査読者からの批判とそれにこたえる過程で論文の小さな誤りが正され論理が明快になったので,発表時期が遅れはしたが有益であったと言える.また枝の周期の安定性についてのデータも整理されつつあり,別な論文にまとめられるであろう. 他方,温度の周期的変動によるホモカイラリティの実現については,一般化したBecker-Doeringモデルでの系統的な計算を終え,この問題解決の最初の段階とする予定であったが,共同研究者が他大学に転出したことなどにより予想以上に時間を要している.一般化したBecker-Doeringモデルを構成することは終了し,数値計算の結果,期待したカイラリティ増幅が可能であることは実証されつつあるが,プロジェクトの最終年度末までに結果がまとめられなかったので,やや遅れていると判定せざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
幸い研究期間の延長が認められたので,2015年度には,パターン形成,カイラリティ転換の二つの問題の成果をまとめて,それぞれ論文として発表してこのプロジェクトの一段階を終了する. パターン形成の問題では,いくつか未解決で現段階ではあまり成果を出せる展望のない課題も残しているが(たとえば樹枝状パターンやランダムパターンをふくむ成長形態相図定量的解明),櫛状パターンの周期の選択機構や安定性の問題では数値的な解析と物理的解釈は,残された期間に論文としてまとめることが可能であると考えている. カイラリティ転換についてはBecker-Doeringモデルでの系統的な計算を終え,温度の周期的変動によってカイラリティ増幅の起こるメカニズムを数値データによって明確に示す.現在までのデータの分析では,カイラルクラスターがカイラリティを持った物質の一時保存庫となって最終的な結晶状態への加速的転換に導くと結論される.同じ機構が塩素酸ナトリウムのような分子が非カイラルな場合にも適用できることを示す.これらの成果を今までの反応式型のモデルでの結果などと合わせて,論文として発表する. 研究の次のプロジェクトではカイラリティ転換を中心課題に据えて,温度の周期的変動によるカイラリティ転換機構の完全な解明を目指す.準安定状態の寄与の解明という点ではパターン形成の問題との共通点を意識的に追及し,全面的な研究の展開を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
温度の周期的変動によるホモカイラリティの実現について,一般化したBecker-Doeringモデルでの系統的な計算を終え,この問題解決の最初の段階とする予定であったが,共同研究者が他大学に転出したことなどにより予想以上に時間を要している.一般化したBecker-Doeringモデルを構成することは終了し,数値計算の結果,期待したカイラリティ増幅が可能であることは実証されつつあるが,プロジェクトの最終年度末までに結果がまとめられなかったので,研究機関の1年間の延長を行う.
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次年度使用額の使用計画 |
主に研究打ち合わせや研究発表のための旅費に用いる.大きな備品を購入することはしない.
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備考 |
(1)のホームページに研究課題とその簡単な解説,あるいは研究内容を解説したプレゼンテーションや文書へのリンクがある.
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