本研究の目的は,結晶成長におけるパターン形成や対称性の破れの現象において,非線形性とゆらぎの競合が果たす役割を解明することである.研究代表者が提案した,粒子源制御によるステップ成長およびカイラルクラスターの結晶化の二つの重要なモデル系では,非線形増幅作用が,実験的に見出された櫛状ステップパターンや結晶粉砕攪拌によるカイラリティの転換などの特異な現象を実現する.その際,ゆらぎがこれらの現象を誘導したり,逆に阻害因子となったりして重要な役割を果たすと見られるので,この非線形性とゆらぎの関係の解明と新現象の予測を目指した. 第一の成果は,粒子源の運動によって櫛状パターンが出現するためのゆらぎと異方性の関係を離散格子モデルと連続体モデルの双方によって示し,さらにパターンの粗大化によって周期が決定される機構を解明したことである.以前,一方向凝固の問題で主張されていたゆらぎの指数関数的増幅による周期決定という予想を初めて検証し,さらに方向凝固では実現しえない解が粒子源の存在によって安定化されること見出した.このことはパターン形成の理解にとって重要な知見である. 第二の成果は,結晶カイラリティの転換におけるゆらぎと非線形性効果の役割の違いを明らかにしたことである.結果的には通常のゆらぎの効果は小さな系でのみ有効で,カイラリティ転換には非線形性が不可欠という常識的な結論であった.しかし,この間に,温度の大幅な変動があれば結晶の粉砕という操作を行わなくてもカイラリティの転換が起こるという発見があり,カイラルクラスターの結晶化という我々の提案したモデルでこの異常な現象を説明しうることが分かった.この問題は今後様々な発展が予想され,新たな科研費の研究課題「結晶カイラリティ転換のダイナミクス」引き継がれる.
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