研究課題/領域番号 |
24540321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊藤 正 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任教授 (60004503)
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研究分担者 |
一宮 正義 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (00397621)
芦田 昌明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60240818)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光物性 / 量子閉じ込め / 光学非線形性 / 分子性結晶 |
研究概要 |
初年度は、有機物芳香族のアントラセン分子性単結晶薄膜(100nmスケール)について、光と励起子のコヒーレント結合によるサイズ共鳴増大現象(超高速輻射緩和と超高速光学非線形性)の存在を確かめるための実験の前提となる薄膜試料作製と基礎的光学スペクトルの測定を行った。 1、蒸留法で純化されたアントラセン分子性結晶を、毛管成長法と呼ばれる方法で、2枚の石英板を貼り合わせた隙間にアントラセンの融液を毛管現象により染み込ませて100nm台の厚さでテーパーの付いた試料を作製した。試料作製は、有機分子性結晶作製に詳しい甲南大学の青木珠緒氏との共同研究である。この試料は2枚のガラス板の隙間にテーパーが付いているため、光学スペクトルの厚さ依存性を測定するのに適していることが分かった。 2、上記の薄膜試料に対して、反射、吸収、発光スペクトルの測定を行い、スペクトルの厚さ依存性から励起子量子化準位の存在を明らかにすることを試みた。薄膜に垂直な方向がc軸であることから励起子質量が大きいため、励起子量子化準位をスペクトル的に分解するためには、試料の光学的純度の良さ(励起子の減衰定数の小ささ)と、測定におけるスペクトル分解能が鍵であり、これらのパラメータに注目してスペクトルの詳細を検討中である。 3、光学非線形性を確かめるための四光波混合実験に適した測定装置の整備を行った。まず、試料を低温に冷やすクライオスタットは、アントラセンが室温で昇華することから専用の装置として整備した。また、振動子強度が無機物に比べて1桁大きいことから更なる超高速応答が期待されるので、実験に用いる光源の短パルス化を図った。上記の試料に対して予備的な実験を行い、四光波混合信号を得ることに成功した。 次年度は、これらの予備実験の上に立って、更に励起子量子化準位測定に適した良質の試料の作製と本格的な非線形光学現象の測定を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、有機物芳香族のアントラセン分子性単結晶薄膜(100nmスケール)の薄膜試料作製と基礎的光学スペクトルの測定が目標であった。 1、アントラセン分子性結晶を毛管成長法で100nm台の厚さでテーパーの付いた試料として作製できた。歪みのために多少の光学スペクトルの劣化は避けられないが、厚さ依存性を測定するのには適している。一方、気相成長法では、純度の比較的高い試料が作製可能であるが、測定に適した100nm台の試料を入手するのは現在の所困難である。 2、上記の薄膜試料に対して、反射、吸収、発光スペクトルの測定を行っているが、スペクトルの厚さ依存性から励起子量子化準位をスペクトル的に分離してその存在を明らかにすることにはまだ成功しておらず、試料の光学的純度の良さ(励起子の減衰定数の小ささ)と測定におけるスペクトル分解能の更なる検討が必要である。 3、光学非線形性を確かめるための四光波混合実験測定装置の整備を行い、実験に適した光源の短パルス化を行うと共に、予備的な光学非線形性測定を行い、四光波混合信号を得ることに成功した。 4、無機半導体のワニエ励起子の場合と比較するために、塩化第一銅についてのサイズ共鳴増大現象の測定を平行して行い、雑誌論文発表2件、学会発表7件を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1、アントラセンについて、毛管法に加えて再沈法による薄膜成長も試み、より良質の試料を作製する。特に、結晶方位の異なる薄膜試料が作製できれば励起子質量が小さいことにより励起子量子化準位がより明確に観測されることが期待される。 2、液体ヘリウム温度における遅延縮退四光波混合法、過渡回折格子法を併用した超高速非線形光学応答を測定し、サイズ共鳴増大現象を確認する。温度変化を測定し、室温でどの程度効果が生き残るかで、塩化第一銅のワニエ励起子の場合と比較して、有機分子性結晶におけるフレンケル励起子の示すサイズ共鳴増大効果の特異性を確認する。 3、ペリレンについても同様の観測を行い、励起子の超高速輻射緩和により励起子の自己束縛化の抑制が起こるかどうかを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で、必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。試料作製のための原料試薬と石英ガラス基板、線形・非線形光学測定のための光学部品、試料を低温に冷やすための寒剤等の物品費に119万円、研究調査・成果発表のための国内外旅費65万円、試料作製・データ整理のための謝金費に10万円、成果発表論文の出版費に5万円、合計199万円を直接経費として予定する。
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