研究課題/領域番号 |
24540322
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
服部 公則 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80228486)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子スピンホール効果 / エッジ状態 / トポロジカルポンピング / トポロジカル絶縁体 |
研究概要 |
本研究では2次元トポロジカル絶縁体である量子スピンホール系の物性解明を主たる目的としている。平成24年度では、平成26年度の研究計画を前倒しし、トポロジカル量子ポンプの理論解析を実施した。量子スピンホール系では、逆向きスピンを逆方向に輸送するヘリカルエッジ状態が形成される。この状態は、量子ホール系に存在するカイラルエッジ状態の時間反転対称な合成と見なせる。一般に、ヘリカルエッジ状態は時間反転対称な摂動、例えば非磁性不純物による散乱に対してロバストである。ただし、時間反転対称性を破る磁気的な摂動に対してはそうは言えない。特に、バルクギャップ中にディラック点を有する量子スピンホール系では、クラマース対の混合によりエッジ分散に質量ギャップが開く。ギャップの開いた2バンド系は、サウレスによって提唱されたトポロジカルな量子ポンピング機構に本質的である。すなわち、ギャップ中にフェルミ準位が置かれたハーフフィリングの場合、動的に誘起されたバンドトポロジーに起因して、量子化された電荷カレントが(充填された下部バンドを通じて)非散逸的に流れ得る。本研究では、このようなポンピング機構に対し非平衡グリーン関数による詳細な理論解析を遂行し、任意パラメター(ポンプ場の強度、周波数、空間プロファイル等)に対する厳密解を導出した。また、自由粒子の線形分散を保持した巧妙な数値計算を考案し、ポンプ領域外部における完全スピン偏極カレントの発生と不純物散乱に対するトポロジカル量子化の安定性などを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要蘭にも記した通り、平成24年度の研究内容は平成26年度の研究計画の前倒しである。これはこの研究分野の発展がめざましく、他グループによる関連論文が平成24年初頭に出版されたことに基づく。このような柔軟な対応は時勢に対応するため必要不可欠である。もちろん、当該研究内容は応用的側面として掲げた本来の計画の一つであり、本研究は全体として順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では2次元トポロジカル絶縁体である量子スピンホール系の物性解明を主たる目的としている。量子スピンホール系の特質は、逆向きスピンを逆方向に輸送するヘリカルな“エッジ状態”にある。エッジ伝導やトポロジカルポンピングに対する不純物散乱ならびに電子相関の効果は重要な今後の研究課題である。一方、3次元トポロジカル絶縁体表面にはヘリカルなスピン偏極を有する2次元ディラック系が形成される。面直な交換磁場が作用し質量ギャップが開くと、この系は異常量子ホール効果を発現する。ホール伝導度は質量の符号に応じ半整数値±1/2に量子化される。したがって、質量反転した界面(磁壁)には、バルク境界対応(電荷保存)に基づき、粒子を1方向にのみ輸送するカイラルな“エッジ状態”が出現することになる。このエッジ状態は非磁気的摂動のみならず磁気的摂動に対しても本質的にロバストである。これは研究計画に記した量子スピンホール/量子ホール複合系で期待される完全伝導チャネルに極めて類似している。この類似性を考慮して、今後は研究対象をトポロジカル絶縁体に形成される特異なエッジ状態にも普遍化し、より広範な物性研究を進展させていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究実績の概要蘭の通り、平成24年度の研究内容は平成26年度の研究計画の前倒しである。達成度理由蘭の通り、これは期せずして当該研究計画の早期の実施が急務とされたためである。結果として、当初計画していた数値計算とそのための物品購入は見合わす形となった。平成25年度には研究費を活用し数値計算環境を整え今後の推進方策に則って研究を進めていく予定である。
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