研究課題/領域番号 |
24540333
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
高澤 健 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 主幹研究員 (10354317)
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キーワード | ボーズ凝縮 / 励起子ポラリトン / ナノファイバー / 有機色素 / 光共振器 / 光物性 / レーザー分光 / 自己組織化 |
研究概要 |
本研究の目的は、有機色素ナノファイバーを用いて室温で励起子ポラリトン(EP)のボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を実現することである。我々はこれまでの研究で、有機色素チアシアニン(以下TC)を自己組織化させて合成したナノファイバーが、光励起で生じたEPを室温でミリメートルに亘って伝搬する新現象を見出した。本研究ではまず、ナノファイバー中にEPの閉じ込めが可能な共振器を作成する。共振器中に光励起により生じたEPを高密度に閉じ込めてBEC状態を生成し、発光スペクトルの顕著な狭幅化を観測することで確認する。24年度までの研究で、室温BECを達成するための第一歩となる、高性能なEP共振器の開発に成功した。具体的には、マイクロマニピュレーション技術を用いてナノファイバーでリング構造を作ると、EPがリング内に閉じ込められ、共振器として機能することが明らかになった。 25年度は、製作したリング共振器を用いて、BEC状態の生成を目指す実験を行った。BECを実現するためには、リング共振器をパルス発振レーザー光で強励起し、初期的に多数のEPを生成する必要がある。その一方で、強励起を行うと、有機ナノファイバーは速やかに劣化してしまう。従って、レーザー強度とレーザーのパルス幅の精密な最適化が必要となる。パルス幅をミリ秒からピコ秒まで変化させると伴に、レーザー強度を広い範囲で変化させて、リングからの発光スペクトルを測定する実験を行った。現時点ではBEC状態の実現に至っていないが、引き続き励起条件の最適化を系統的に進めていく。 上記実験と並行し、TCとは異なる分子(コロネン)の自己組織化で合成したナノファイバーがEP伝搬を示すことを発見した。コロネンナノファイバーは半導体的な性質を有するため、有機ナノファイバーによるオプトエレクトロニクスへの展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるナノファイバーを用いたEPのBECを実現するための第一歩となる、EP共振器の作製に、研究の初年度である24年度に成功した。25年度からはBEC状態を実現するための、実験条件の最適化を開始した。現時点では、BECの実現に至っていないが、引き続き系統的に最適化を進めることで、目的に到達できると考えている。従って、研究は目的に向かって概ね順調に進んでいる。 また、当初目的無かった、コロネンナノファイバーによるEP伝搬の発見や、ナノファイバーを用いた様々な極微小光学素子の開発など、多くの成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
BEC実現のための、実験条件の最適化を引き続き行う。また、24年度の研究で、ナノファイバーを用いると、従来技術では実現困難な極微小光学素子の構築が可能であることを示した。これについても、種々の革新的な極微小光学素子の開発を行う。また、EPを伝搬するコロネンナノファイバーを用いたオプトエレクトロニクスについての研究も推進する。手始めに、コロネンナノファイバーを用いた電界効果トランジスターの試作を行う。
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