研究課題/領域番号 |
24540335
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
筒井 健二 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用部門, 研究主幹 (80291011)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 共鳴非弾性X線散乱 / 強相関電子系 |
研究概要 |
銅酸化物高温超伝導物質やその関連物質,そして鉄系超伝導物質等の遷移金属化合物に対する高分解能非弾性X線散乱や共鳴非弾性X線散乱の実験が精力的に行われてきている.特に銅酸化物高温超伝導体のスピン励起が銅L吸収端共鳴非弾性X線散乱でも観測できることが報告され,この実験手段が一気に注目を集めている.そのため,遷移金属化合物にこの実験手段を適用する場合の理論が必要となってきている.例えば多軌道系である鉄系超伝導体や反強磁性クロム金属では,スピン励起や電荷励起を知る上でそれらを担う軌道の性質を知ることが重要となるが,散乱の偏光性等から軌道の情報を引き出せる可能性がある. 本年度では,これら鉄系超伝導体親物質および反強磁性クロム金属に対するL吸収端共鳴非弾性X線散乱を,多軌道ハバード模型の動的相関関数に対しては乱雑位相近似を行い,X線散乱プロセスに対しては高速衝突近似に基づいて議論し散乱スペクトルを予見した.その結果,マグノン励起や軌道励起,そしてそれらの複合励起の観測可能性が理論的に明らかになり,共鳴非弾性X線散乱により実際に励起構造における軌道の性質を引き出せることが分かった. また,鉄系超伝導体親物質に対して,多極子遷移の効果を考慮した非弾性X線散乱スペクトルを求め,それら励起の起源について解析を行った.そして共鳴散乱による軌道励起と対応した励起が非共鳴散乱でも観測できることを理論的に明らかにした.この結果は軌道の性質を特定するための相補的な実験手段としてもこれら散乱実験が非常に有効であることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体の親物質や反強磁性クロム金属に対する共鳴非弾性X線散乱によるスピン励起を,本年度は特にX線の吸収・放出時の遷移要素に注目して議論した.その結果マグノン励起や軌道励起等によるスペクトルの観測可能性が明らかになり,共鳴非弾性X線散乱により実際に励起構造における軌道の性質を引き出せることが分かった.これら初年度で得た散乱過程に関する理論結果を有効に用いることで,次年度以降に行う散乱プロセスの理論の高度化が可能となる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた散乱プロセスに関する理論結果を用いて散乱理論の高度化を試みる.特に散乱プロセスの中間状態の効果を数値計算により取り入れて非弾性X線散乱スペクトルの計算を行なっていく.また,鉄系超伝導物質やクロム金属における様々な相に対しても初年度で得られた理論結果や次年度以降得られる散乱理論を適応させ散乱スペクトルの特徴を明らかにしていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
多体ハミルトニアンを数値的に厳密に扱うことで散乱プロセスの中間状態の効果を適切に取り入れる.そのため散乱スペクトルの計算には大規模な並列計算が必要不可欠となる.初年度の結果を踏まえて次年度はその散乱プロセスの計算をより高度化していくため,今年度導入した計算機システムへ次年度は計算ノードの増強を行う予定である.
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