研究課題/領域番号 |
24540336
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
金子 耕士 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (30370381)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラットリング / 強相関電子系 / 粒子線 / ナノ材料 / 物性実験 / 国際研究者交流(フランス) |
研究概要 |
研究実施の軸である中性子散乱施設の内、主として想定していた研究炉JRR-3が再起動しなかったため、中性子散乱については、海外施設での実験を行った。この内、非調和振動と超伝導の強い相関が指摘されているβ-パイロクロア化合物の一つ、CsOs2O6について、単結晶中性子回折実験をフランスILLにおいて実施し、構造解析に必要な精度を持ったデータの収集に成功した。その結果、超伝導転移点近傍で、熱振動の振る舞いが顕著に変化している兆候を見出しており、熱振動の可視化に向けた解析を進めている。 中性子と相補的な視点が得られる放射光を用い、非調和振動が重い電子状態の形成などに大きな影響を及ぼしている充填スクッテルダイト系のPrRu4Sb12について、詳細なフォノンの分散関係や、その温度変化について測定した。同じカゴのサイズを持ちながら非調和性の異なるPrOs4Sb12及びPrRu4Sb12の両者において、低エネルギーに位置する非調和モードに顕著な違いがあることを見出した。現在、定量化に向けた解析を進めている。 カゴ状構造を持つ重い電子系化合物YbCo2Zn20の低温物性について、中性子散乱実験から磁場誘起秩序相の秩序波数の解明に成功し、圧力誘起相とは異なる秩序状態にあることを明らかにした。また低温での非弾性散乱実験から、低エネルギー領域に結晶場励起と重い電子に起因した準弾性散乱が混在していることを見出した。これらの縮退した励起がYbCo2Zn20における多彩な外場応答の創出へと繋がっていることを示唆した。 次年度以降のより効率的な研究遂行に向けた装置開発として、J-PARCにおける単結晶中性子回折装置の開発に従事し、X線サイズであった1mm3クラスの微小単結晶における中性子回折実験の実施に成功した。次年度以降も装置の改良に参加し、本研究での使用を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施の主たる施設の一つ、研究炉JRR-3が現在も未稼働のため、予定していた実験の内、クラスレート化合物等、一部の実験については実施することが出来なかった。一方で、海外施設や放射光、J-PARC等を利用することで、β-パイロクロアにおけるデータの取得に成功し、スクッテルダイトにおいても、フォノン分散の詳細な測定に成功出来た点は、順調に進んでいる。また今後の効率的な研究遂行に向けた装置開発も着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も研究炉JRR-3の運転計画が未確定な点は今後の方針を立てる上で問題であるが、海外施設等を継続的に利用することを視野にいれて計画している。この内、単結晶中性子回折を用いたラットリング振動の可視化については、未実施であったクラスレート化合物を米国オークリッジ国立研究所のHFIRで、またβ-パイロクロア化合物の内残るKOs2O6をフランスILLで各々実施することを目指して、準備を進めている。 データ解析については、これまでに実験を行ったCsOs2O6について、ラットリング振動の可視化に向けた解析を進める。充填スクッテルダイト化合物PrRu4Sb12, PrOs4Sb12については、フォノン分散の定量的な解析を進め、重要となるモード、ゾーンの同定や、他の物理量との関連を見出すことに加え、得られた結果をもとに、次の測定対象を決定する。重い電子系物質YbCo2Zn20については、秩序変数の同定及び非弾性散乱スペクトルの定量的な解析を行い、低温物性の解明を進める。以上の解析が終わり次第、順次成果としてまとめていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内実験施設の現状を踏まえ、研究費は主として、米国およびフランス等の海外施設における実験実施のための旅費として使用する。その他、国際会議で成果発表を行うための参加費及び旅費、またJ-PARCにおける装置開発に絡む消耗品として支出を予定している。
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