研究課題
主たる研究対象であるカゴ状構造物質を筆頭に、特異な結晶構造を持つ化合物で現れる多彩な物性について、中性子及びX線を相補利用した、構造、ダイナミクスの研究を推進した。今年度も主たる研究施設として想定した研究炉JRR-3が未稼働のため、J-PARC, SPring-8の国内施設に加え、研究所ILL(仏)、Oak Ridge国立研究所(米)等の海外施設において実験を実施した。本年度は新たに、構造起源の量子臨界性及び超伝導を示すと報告されているA3Ir4Sb13(A=Ca, Sr)を対象とし、不安定性を誘起する相転移について、単結晶X線及び中性子散乱実験による微視的研究を行った。今回、母物質であるSr3Ir4Sn13を対象として実験を行い、不安定性を誘起するもととなる相転移が、q=(1/2 1/2 0)で記述される構造相転移であり、履歴がないことを明らかにした。ダイナミクスからは、室温で4 meV付近に存在する低エネルギーのフォノンが、相転移点に向けてソフト化していく傾向を見出した。静的・動的応答から、対象とする相転移が2次の構造相転移であり、量子臨界性とつながることを明らかにした。昨年度からの課題の発展としては、β-パイロクロア化合物の中で、もっとも注目を集めるKOs2O6について、単結晶中性子回折実験を行い、Kイオンが示す非調和熱振動及び超伝導相内で起こるラットリング転移について調べた。マキシマムエントロピー法を用いた解析の結果、Kイオンの強い非調和熱振動の可視化に成功した。またラットリング転移以下で、特定の反射強度が変化していることを明らかにした。転移の詳細解明に向けて、現在解析を進めている。これまでに研究を行ったCsOs2O6, YbCo2Zn20、I型クラスレート等については、論文としてまとめる作業を進めた。
2: おおむね順調に進展している
主たる研究施設として想定していたJRR-3が未稼働なために、予定した一部の実験については未実施である一方、微小単結晶試料を用いたβ-パイロクロア超伝導体の実験に成功するなど、海外施設の利用により、大きな進展も得られていることから、全体としては順調に進展している。
今年度もJRR-3の運転計画が未定なため、今後の進展については不透明な部分が残るが、計画最終年度として、成果をまとめる上で必要となる追加実験については、既に海外施設等への実験課題が採択済み、もしくは申請済みである。得られた結果を基に、熱電クラスレート、1-2-20系、A3T4Sn13, β-パイロクロア超伝導などの研究成果について、まとめることを主眼に据える。今後の発展的展開として、フォノンと他の自由度との結合が引き起こす新奇な物性について、X線及び中性子散乱実験に着手する。
研究の主たる実施場所として想定していた、研究炉JRR-3が稼働せず、必要な物品費の支出が抑えられたため。
JRR-3の再稼働状況が不明確なため、代替施設として海外中性子源での実験を予定しており、旅費として使用する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
Phys. Rev. B
巻: 89 ページ: 241105(R) 1-4
10.1103/PhysRevB.89.241105
JPS Conf. Proc.
巻: 3 ページ: 011601 1-5
10.7566/JPSCP.3.011061
巻: 3 ページ: 011060 1-5
10.7566/JPSCP.3.011060
Phys. Rev. Lett.
巻: 113 ページ: 147202 1-5
10.1103/PhysRevLett.113.147202
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 83 ページ: 104707 1-5
10.7566/JPSJ.83.104707