研究課題/領域番号 |
24540340
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (70344398)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 赤外近接場分光 |
研究概要 |
本研究課題は、ナノメートルオーダーの空間分解能を持つ赤外近接場分光装置を開発し、積層セラミックコンデンサの強誘電体層1層の内部状態を調べることを目的としている。赤外近接場分光装置の光源としては、大型放射光施設SPring-8の高輝度赤外放射光を利用する。計画実施前は、市販のAFM装置とFTIR装置を組み合わせて構築した装置で、プローブ振動を利用した変調分光を行うことにより、900-1030cm-1における近接場スペクトル測定を達成していた。空間分解能は300nmであった。しかし、スペクトルのS/N比が悪く、空間分解能評価のためのテスト試料(シリコン基板上の金薄膜)以外の試料を測定することができなかった。本研究の平成24年度計画では、非対称FTIR配置への装置改造を行い、interferometric gainによるS/N比の改善と、スペクトル領域の拡大を行う予定であった。また、積層セラミックコンデンサについては、試料を入手し近接場分光測定用に表面研磨して、テスト測定を行う予定であった。 当該年度、非対称FTIR配置への装置改造は計画通り、ほぼ完了した。ピエゾステージや、光学系安定化のための暗室ユニット、スペクトルのS/N比を改善するためのMCT検出器等を購入し、光学系の調整時間の短縮化、光学調整の再現性向上、スペクトル領域の拡張(800-1700cm-1)を行った。積層セラミックコンデンサは、計画前に測定していたテスト試料(シリコン基板上の金薄膜)に比べて信号が小さい。SPring-8は共用施設であるため、ビームを利用できる限られた時間内に目的の試料を測定するためには、平成24年度に達成した項目は大変重要である。積層セラミックコンデンサについては、試料を入手し、表面研磨を行い、通常の顕微分光でスペクトルの確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究遂行の途中で、予想外の事象が生じて、全体の計画はやや遅れている。近接場分光装置の実験ステーションにおいて、計画遂行前にはなかった光源のゆれが増大し、スペクトル測定に困難が生じた。揺れの原因調査を行った結果、ビームライン上流の光学コンポーネントの揺れが原因であることが判明した。(公財)高輝度光科学研究センターの関係部署担当者と協力し、コンポーネントの揺れを抑える対策を検討・実施した結果、計画遂行前の状態に戻すことができた。これらの調査、対策のために、研究全体の計画は若干遅れが生じた。積層セラミックコンデンサの強誘電体層(TiBaO3)は600cm-1にピーク構造を持つため、計画では、低波数側のスペクトル領域を600cm-1 程度まで拡張する予定であった。しかし、実際には800cm-1にとどまった。ただし、大きなビームゆれの対策を施す過程で、以前から存在していた比較的振幅の小さいゆれも軽減できる可能性が見いだされた。開発中の赤外近接場分光装置では、赤外放射光をプローブ先端に集光する。プローブ先端の曲率半径は100nm、放射光の集光スポットサイズはおよそ10μmである。SPring-8では、ビームの揺れを抑えるための対策を絶えず行っており、世界の放射光施設でトップクラスの安定性を持っている。にもかかわらず、実験室の赤外光源(代表的な光源はグローバーランプ)に比べると、赤外放射光は時間的空間的な安定性が劣る。光速に近い速度で回転する電子ビームから放射される光であるため、熱輻射光源に匹敵する安定性を得ることは困難である。しかし、ビームのゆれは、スペクトルのノイズ増大に直結する。実験ステーションで利用するビームの安定性を更に向上させるための方策が示されたことは、結果として、計画全体にからみてプラスに作用すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
赤外近接場分光装置を開発し、積層セラミックコンデンサの強誘電体層1層(厚さ600nm)の赤外スペクトルを測定し、層内の状態を明らかにすることが本研究課題の目的である。赤外近接場分光装置に関しては、スペクトルのS/N比を更に改善させる方策を施して、スペクトル領域の低波数側を600cm-1程度まで拡張する。S/N比改善の具体的な方策は、1)ビームの揺れを抑えるため、ビームライン上流で揺れを伝達している光学コンポーネントの固定方法を改善する、2)上流から近接場分光装置までの振動を詳細に調べ、揺れを誘発しているコンポーネントが新たに見つかった場合には対策を施す、3)感度が高く、ビーム振動に強い検出器を導入する、の3点である。スペクトル領域を現在の800cm-1から600cm-1に拡張するためには、装置上流に設置している窓材を変更する必要がある。現在はBaF2窓であるが、これは700cm-1までしか透過しない。KRS-5、KBr、ダイヤモンドなどを検討し、透過率が高く、ビームプロファイルの悪化を起こさない窓材を選択する。 測定試料となる積層セラミックコンデンサに関しては、既に、研磨等の試料準備を終え、顕微分光でスペクトルの確認も行っている。今後は、近接場分光装置に実際に搭載し、表面トポ像の取得、金属層でのスペクトル測定、強誘電体層のスペクトル測定を順次行っていく予定である。試料研磨の仕方により、層の距離を数百nmから数μmで制御できることがわかった。周期的に配列する金属層の影響により、干渉などの効果がスペクトルに現れないかどうか、層間距離を変えた試料を使って検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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