顕微赤外分光は、微小領域・微小試料の分子振動や低エネルギーの電子状態を測定する重要な技術である。しかし、赤外光は波長が長いため、空間分解能は回折限界で数μmに制限される。小型化が進む積層セラミックコンデンサの更なる性能向上のためには、ナノメートルオーダーの空間分解能で各層の状態を調べる必要がある。本研究では、赤外放射光を光源として利用して、赤外近接場装置を開発した。赤外放射光は、赤外分光で通常利用されるグローバーランプなどの熱輻射光源と比較すると2桁以上輝度が高い。本研究で開発した装置は、高輝度赤外放射を光源とし、プローブを試料に近接させて操作するAFM装置と、分光の為のFTIRを組み合わせて構築した。開発当初は市販のFTIR装置を利用したが、本研究で、非対称FTIRをくみ上げ、ここにAFM装置を組み込んだ。ビームスプリッターで二分した光りの片方を可動鏡に導き、もう片方をAFMプローブ先端に集光する。プローブ先端からの散乱光と可動鏡からの反射光を干渉させて観測する配置である。この配置では、interferometric gainによる信号の増強が期待される。微弱な近接場信号は、AFMプローブの振動を利用した変調分光出抽出した。これらの装置改造の結果、900-1300 cm-1の領域で空間分解能300 nmを達成した。また、スペクトルのS/N比は約6倍、S/B比は約8 倍改善した。SiCのフォノンスペクトルの測定が可能となり、更に、基盤上のAuについて、幅150 nmのAu部分をスペクトル測定で判別することができた。
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