ホログラフィー手法を応用した新たな3D原子配列測定法を研究した。この方法は、放射光核共鳴散乱とホログラムを組み合わせた方法である。これは今迄の測定法とは異なり、原子の化学状態も明らかにできる可能性があるという特徴を持つので、物性の機能発現メカニズムの情報も明らかにできる可能性があると期待される。メスバウアー効果を利用する本手法では、共鳴γ線を共鳴吸収する原子核の状態と同時に、この原子核周辺の電子状態や、この原子に隣接する同種・異種原子の状態も明らかにできると期待される。結晶試料への入射γ線の方位を走査して、メスバウアー効果により発生する内部転換電子を起源とする、遅延蛍光X線の2次元強度分布を取得すればγ線ホログラムとなる。
検出効率が高く、高精度のデータが取得できる新たな測定システムの構築を行った。57Feを含む結晶試料(へマタイト結晶)にパルス状の放射光X線を照射し、試料を回転させながら、高速APD検出器でX線の強度変化を測定し、ホログラムデータを得た。γ線ホログラムデータには、同時に取得した蛍光X線ホログラム(結晶情報取得可)とは別のパターンが見られた。γ線ホログラムデータには、ホログラム振動よりも大きな、ホログラムとは別起源と考えられる大きな4回対称のモジュレーション「4φ成分」が含まれていた。測定系の非対称性などを除くために数回に渡って実験セットアップを変えて測定したが、このモジュレーションは必ず再現した。このモジュレーションには物理的な発現機構が存在していると考えられる。この4φ成分は、放射光特有の入射X線の高いエネルギー分解能(~meV)や偏光特性に起因すると考えても、また試料の結晶対称性(3回対称)に起因すると考えても説明ができない。M1遷移でも説明できない。メスバウアー効果の厚み効果と放射光の偏光特性で考えても、対称性がある4φ成分は説明できない可能性がある。
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