本研究課題の研究対象であるダブルペロブスカイトA2BMF6と変型パイロクロアAM2F6に加えて,前年度に新しく発見した秩序型変型パイロクロアA2BM3F12に関して,合成および物性測定を行った.特に,いくつかの系に関しては,単結晶を用いた磁性の研究から,それらの物性の起源を明らかにすることができた.その一部について,以下に説明する. 変型パイロクロアACr2F6に関しては,これまで粉末試料において,磁気転移の存在を明らかにしていたが,単結晶の育成に成功し,磁気転移の方向依存性の測定を行った.その結果,二つの反強磁性スピン鎖が相互作用することによって,磁場下で特異な振る舞いをすることが明らかになった. 前年に発見したカゴメ格子を持つ秩序型変型パイロクロアA2BTi3F12、A2BV3F12に関しては,単結晶を用いて詳細に物性測定を行った.さらに,同様の構造のクロムのフッ化物A2BCr3F12も新たに発見し,その物性測定も行った.いずれの化合物も負のワイス温度を持ち,反強磁性相互作用が支配的である.フラストレーションの効果によって,磁気秩序の形成が抑制されている.クロムおよびバナジウムの化合物は,10K以下の温度で磁気秩序を示すが,チタンの化合物は測定を行った最低温度まで磁気秩序を示さない.このことは,スピンが短くなって量子性が増したためであると考えられる.チタン化合物はS=1/2の量子スピンを持つカゴメ格子として,初めての磁性をチタンが担う物質であり,新奇な基底状態を持つことが比熱や磁化過程の測定などから明らかになった.
|