研究実績の概要 |
ペロブスカイト酸化物人工超格子の成長する配向と積層の周期を変えることで磁性イオンの配列を制御し、更に酸化還元反応を施し酸素配位を制御することで、遷移金属陽イオンの新規な配列・価数、および酸素イオンの配位を物性の起源とする新しい磁性体を合成し、将来の新規酸化物素子実現へ向けた基礎を確立することを本研究は目的としている。 初年度はブラウンミレライト酸化物Ca2FeMnO5 (BM-CFMO) の合成と低温酸化を行った。BM-CFMOではFeとMnが二次元的な自然超格子を形成しており低温酸化によりペロブスカイト構造Ca2FeMnO6 (P-CFMO) に至ると予想される。P-CFMOは二次元層状人工超格子と同様にイオン配列に基づく新規物性が期待できる。そこでBM-CFMOの粉末試料の合成と酸化(O3/O2,~10%)および薄膜試料の合成・配向制御を行った。粉末X線回折によりBM-CFMO単相試料の合成を確認した。引き続き1気圧O3/O2ガスで200°C3時間処理することでP-CFMOが合成できた。一方パルスレーザー蒸着法により膜厚40nmの単結晶BM-CFMO薄膜の合成および格子ミスマッチに基づく成長配向の制御にも成功した。 第二年度はBM-CFMO薄膜試料の酸化に挑み、効果的かつ再現性の高い方法を確立した。様々な条件を詳細に検討した結果、100%に近い再現性でP-CFMO薄膜試料が合成できるようになった。電気抵抗率測定から、Fe/Mn積層方向に平行な電気抵抗率は垂直方向に比べて一桁程度低いことが明らかになった。 最終年度はP-CFMOの主に粉末試料の磁気構造の解明を行った。メスバウワー分光測定および中性子散乱実験の結果、P-CFMOではFe4+がFe3+とFe5+に空間的に分離する電荷不均化が生じることおよびその際に実現するノンコリニアーなスピン構造が明らかになった。
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