研究課題/領域番号 |
24540347
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
細越 裕子 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50290903)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 磁性 / 有機ラジカル / 量子スピン / 強相関電子系 / 低温物性 / 分子性固体 / 磁化率 / 比熱 |
研究概要 |
今年度は、フェルダジルビラジカルを用いた二次元磁性体の構築研究を中心に行った。主たる研究成果を以下に記す。 (1)2つのフェルダジルラジカルをビフェニル基のパラ位に置換したp-BIP-V2について、孤立分子系の実験から、分子内磁気相互作用を評価した。結晶構造に基づく分子軌道計算を行い、分子間磁気相互作用の符号と大きさについて考察した。磁化率・磁化の測定結果について、数値計算と比較しながら解析した。これらの結果を総合的に判断し、この物質が50 Kクラスの強い反強磁性相互作用を持つ二次元量子磁性体として理解できることを明らかにした。蜂の巣格子と正方格子の中間に位置する新しい二次元格子を構築している。面間には弱い反強磁性相互作用が存在するため、有機磁性体としては比較的高温の7.5 Kで磁気転移が観測された。 (2)2つのフェルダジルラジカルをフェニル基のメタ位に置換したm-Ph-V2の磁気相互作用について、孤立分子系の実験、極低温下の磁化・比熱測定および数値計算から詳細に検討した。その結果、強磁性鎖相互作用を持つ二重鎖化合物として磁気挙動を説明することができた。鎖間相互作用により二重層構造を取ること、4.2 Kで三次元秩序が観測されたことから、層間にも弱い磁気相互作用が存在することを明らかにした。 (3)フェルダジルモノラジカルを用いた結晶構造制御に関する研究を行い、二重鎖や二次元蜂の巣格子磁性体の構築に成功した。スピン密度分布の大きいフェニル基の化学修飾にも着手した。 (4)フェリ磁性体構築に向けた新しいS = 1種を、ニトロキシドおよびフェルダジルラジカルを用いて合成し、その分子内および分子間磁気相互作用の評価と単結晶構造解析を行った。π共役と磁気相互作用の相関関係をニトロキシド系ラジカルについて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機ラジカルを用いて、50 Kクラスの強い磁気相関を持つ二次元磁性体の合成に成功し、その磁気特性を明らかにすることができた。π共役系を拡張することで、スピン密度が分子全体に分布した平面性分子を積層させることにより、狙い通りの強い磁気相関を多次元的に実現することができた。戦略的に二次元磁性体を設計するためには、分子骨格と分子配置、磁気相互作用との相関関係を明らかにすることが欠かせない。今年度、フェルダジルラジカル結晶数種の構造解析と磁性解析に成功し、分子間配置と磁気相互作用との相関関係について知見を得ることができた。また、π共役の強さと磁気相互作用の相関関係には一定の規則性が認められた。これらの研究成果を次年度の研究計画にフィードバックさせることで、目的達成が見込まれるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の主な項目を以下に挙げる。項目(1)(2)は平成25年度に行い、項目(3)(4)は平成25から26年度に渡って遂行する。 (1)フェルダジル系ビラジカルを用いた二次元量子磁性体の構築研究:フェニル基のパラ位置換、あるいはビフェニルのメタ位置換体による分子間磁気ネットワーク形成について磁気特性を評価する。分子骨格と分子積層様式の相関関係を考察する。 (2)フェルダジルモノラジカルを用いた化学修飾を進め、分子間配置と磁気相互作用の相関関係を抽出する。スピン密度分布の大きなフェニル基を化学修飾したラジカル種の単離と単結晶育成を行う。 (3)スピン密度分布をπ共役系に広げる分子設計、分子積層に有利な分子骨格設計を行い、二次元量子磁性体の開発研究を行う。 (4)新しいS=1種の開発を行い、その量子磁気状態の解明を行う。分子内に複数のラジカルを配置したフェリ磁性構成分子を合成し、量子磁気状態の解明を行う。 実験手順は、試料の合成・純良化後、単結晶育成と単結晶構造解析を行う。静磁化・静磁化率測定においては、結晶と孤立分子系の実験を行い、分子軌道計算と合わせ、その磁性モデルを構築する。さらに数値計算を行いながら、その磁気相互作用の評価と、量子磁気状態の考察を行う。熱物性や磁気共鳴を含む極低温下の物性測定は、学外共同実験施設を利用しながら、多角的に進めてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機合成に必要な化学試薬、有機溶媒、ガラス器具および、磁気測定に必要な寒剤代などの消耗品費に主に使用する。また学外実験や成果発表の国内・外国旅費としても使用する。 初年度に1万円以下の次年度使用額が生じたのは、最適な合成経路を模索しながら有機合成を進めているため、試薬購入計画に若干の遅延が出たためである。H25年度交付額と合わせ、試薬購入に充てる。
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