研究課題/領域番号 |
24540347
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
細越 裕子 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50290903)
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キーワード | 磁性 / 有機ラジカル / 量子スピン / 強相関電子系 / 低温物性 / 分子性固体 / 磁化率 / 比熱 |
研究概要 |
今年度は、フェルダジルラジカルを利用して、一次元鎖が連結された二重鎖および二次元蜂の巣格子の合成に成功し、量子相転移や量子磁気状態の熱励起の観測に成功した。主たる研究成果を以下に記す。 (1)1,5-ジフェニルフェルダジルラジカルに複数のハロゲン原子が置換されたフェニル基を導入し、スピン空間構造の制御を行った。フェニル基の4位にフッ素原子を置換することで、分子間強磁性相関を発現する分子間配置を取りやすくなることを明らかにした。これに加えて3位に塩素、臭素を置換することで、強磁性鎖間が反強磁性的に連結された梯子格子を形成することを明らかにした。様々な磁場中での磁化の温度依存性から、低次元磁性体に特有の朝永-ラッティンジャースピン液体の熱励起を観測した。さらに梯子鎖間の相互作用により、磁場誘起の量子相転移現象を観測することに成功した。強磁性鎖を基盤とする磁性体で初めての量子効果の観測であり、有機磁性体が理想的な量子スピン系を形成することを実証することができた。 また、フェニル基の2,6位にフッ素原子を置換することで、ラジカル平面とフェニル基平面が大きくねじれた分子骨格を取らせ、二次元蜂の巣格子を形成することに成功した。弱い二次元面間相互作用による反強磁性秩序状態において、量子磁気状態に特徴的な熱励起を観測した。 (2)フェルダジルラジカルにおいてスピン密度分布が大きいフェニル基の化学修飾を行った。塩素原子の置換体をの合成と単結晶育成に成功した。結晶構造から二重鎖スピン格子の形成が示唆されたことから、低温物性を詳細に調べている。 (3)フェリ磁性体構築に向け、ニトロキシドビラジカルを用いた新しいS = 1種の合成に成功した。一次元鎖系および二次元格子の形成に成功し、磁場中低温物性測定を詳細に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機ラジカルを用いて、一次元鎖が架橋された二重鎖格子や二次元磁気格子の合成に成功し、その磁気特性を明らかにすることができた。π共役系にハロゲン置換基を導入することで、スピン密度が分子全体に分布した平面性分子の積層構造を制御する方法論を得た。これらスピン格子の低温磁場中物性測定により量子現象の観測に成功した。今後、S=1種を用いた量子磁性体の開発を行い、量子フェリ磁性実現をも視野に入れ、これまでに得られた結果を分子設計にフィードバックさせることで、目的達成が見込まれるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の主な項目を以下に挙げる。 (1)π共役系を拡張することで、スピン密度分布の広がりを拡張し、より強い磁気相関をより多次元的に実現するような分子設計を行う。 (2)新しいS=1種の開発を行い、その量子磁気状態の解明を行う。分子内に複数のラジカルを配置したフェリ磁性構成分子を合成し、量子磁気状態の解明を行う。 実験手順は、試料の合成・純良化後、単結晶育成と単結晶構造解析を行う。静磁化・静磁化率測定においては、結晶と孤立分子系の実験を行い、分子軌道計算と合わせ、その磁性モデルを構築する。さらに数値計算を行いながら、その磁気相互作用の評価と、量子磁気状態の考察を行う。熱物性や磁気共鳴を含む極低温下の物性測定は、学外共同実験施設を利用しながら、多角的に進めてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は前年度中に合成に成功した物質の磁場中低温物性測定に重点を置いたので、合成試薬の購入が予定より少なくなったため。共同利用施設を利用した学外での低温実験は少ない自己負担で遂行することができたため。 二年次までの実験結果から得た物質設計戦略に基づき、新物質合成を精力的に行うため、主に合成試薬の購入および人件費費・謝金として使用する。
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