本研究ではフラストレート磁性体の磁場中異常量子現象を厳密対角化法で調べた。カゴメ格子ハイゼンベルク反強磁性体はその典型で、その性質解明は不十分な状況に留まっていた。この系の磁化過程では、飽和の3分の1の高さで傾きの小さい磁場領域が現れるが、よく知られた磁化プラトーとは異なる振舞が問題となっていた。我々は、この高さの量子状態が、系に歪みを導入した時に現れる二つの相の境界直上の場合に相当することを、京を含むスパコン上で行った大規模並列計算によって解明した。この事実が上記異常現象と密接に関係する。更に我々は、歪みで現れた二つのうちの一つの相の場合で、スピンフロップを起源とする磁化ジャンプも発見した。カゴメ格子系に加えて、歪んだカゴメ格子の場合、カイロペンタゴン格子、正方カゴメ格子などの様々な格子系の反強磁性体の磁化過程を調べた。これらの格子上のハイゼンベルク反強磁性体では、歪みのないカゴメ格子の場合と異なり、飽和の3分の1の高さに磁化プラトーが現れるが、プラトー端の一方で磁化ジャンプが発現する。このジャンプの前後の状態は、スピンの軸方向が不連続に変化していて、いわゆるスピンフロップ現象が起こっていることを明らかにした。スピンの軸方向が不連続に変化する現象は、スピン空間に異方性がある場合に良く知られていたが、本研究が見出した事例は、全てスピン空間に異方性がない場合の磁化過程でフラストレーション起源で発現している。
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