研究課題
原子核の陽電荷とその周囲の電荷分布との相互作用(「核四重極相互作用」)は固体物質における微小、或いは局所的な構造変化(電荷分布変化)であっても敏感に検知し、核四重極共鳴に変化が現れることが近年明らかになってきた。本研究では、この核四重極相互作用の測定を中心に、核磁気共鳴(NMR)と核四重極共鳴(NQR)を用いて、興味ある物質における微視的な電子状態を明らかにすることを目的としている。平成25年度は,それまでの研究が実を結び、幾つかの論文報告を行った。イッテルビウム重い電子系化合物YbCo2Zn20については、0.2K以下でf電子の遍歴性が増したことによる格子の膨張をCo-NQR測定で観測した。このような極低温下において重い電子状態の発達を示す物質はこれまでに殆ど前例がなく、今回の結果はそれを裏付ける微視的な証拠と位置付けられる。サマリウム中間価数合物SmB6については、6GPaまでの高圧下NMR測定とそのデータ解析が完了し、核四重極共鳴周波数の温度・圧力依存性からSm価数の低温下における圧力依存性を見積もることに初めて成功した。さらに、この物質の半導体ギャップ構造の圧力依存性に関する情報も得られ、SmB6が示す高圧下物性の詳細を初めて微視的な観点から明らかにすることができた。ウラン化合物URu2Si2については、この物質が17.5Kで示す隠れた秩序と呼ばれる相転移に関して、磁場中・ゼロ磁場中の両面から詳細な測定を行った。その結果、この物質が本来持つ4回回転対称性が失われていることを示唆する結果が得られた。その他、ユーロピウム化合物EuPtPの磁気秩序状態において、磁気モーメントを有するEu核の直接観測に成功し、磁気秩序構造を同定することできた。
2: おおむね順調に進展している
核四重極相互作用の観測を中心に、本研究プロジェクトならではの成果を得ることができた。YbCo2Zn20が示す0.2K以下での状態は、磁気秩序状態との臨界性に非常に近い状態において、価数揺らぎに特徴的な振舞いを介して重い電子状態の観測に成功した。SmB6では、B-NMRで測定した核四重極共鳴周波数と価数とを結びつけ、この物質の40年以上に渡る永い歴史の中で初めて高圧・低温下でのSm価数見積もりに成功した。URu2Si2についても、核四重極共鳴周波数と局所電荷分布とを結び付けて、結晶の4回対称性の消失が磁気的なものではなく、格子の歪によるものであると結論することができた。また、EuPtPにおける磁気秩序構造を同定するためにEu核を直接観測する際には、核四重極相互作用の大きさをパラメタとすることで、それぞれの信号同定に大いに役だった。このように、核四重極共鳴相互作用を用いて物質中の局所的な電荷分布の変化をプローブするという本研究の目的に沿った成果が得られたと同時に、本研究が有意義なものであったことを示すことができた。一方で、今後に残された課題も明確になった。特にURu2Si2については、隠れた秩序状態よりも高温から対称性低下が観測されており、磁場誘起成分の影響を見極める必要があるなど、最終的な結論にはまだ至っていない。また、測定技術の観点からは、NMR/NQR信号の感度を向上する低温プレアンプの導入を果たすなど改善もあったが、当初から予定していた3He冷凍機の作製が、ハンドリングシステムが完成した段階で止まっており、次年度に持ち越す課題となってしまった。
先述の研究対象物質に関しては、今後次の様な研究を行う。SmB6については、核四重極共鳴周波数がどのように決まるかを詳細に調べるため、高圧・低温下においてSm価数を決定することができるx線吸収スペクトル測定を行う(4月中旬と5月末にSPring-8においてビームタイムを予定)。また、これまでの最高圧力6GPaを超す10GPa近傍におけるNMR測定を試みる(高知大学との共同研究)。さらに、圧力効果に似た現象を引き起こすことが知られている置換効果(Sm<->La,Yb)についてもNMR測定によって調べ、圧力効果と置換効果との比較を行う(茨城大学との共同研究)。Yb化合物については、中間価数物質(YbPd2Si2やYbAgCu4など)を中心に、核四重極共鳴周波数と他の物理量(帯磁率(ナイトシフト)、核スピン-格子緩和時間、格子定数、等)の温度依存性を比較し、核四重極共鳴周波数がどのような要因で決まっているかについて詳しく調べる。URu2Si2については、磁場の影響を考慮する必要があるため、弱磁場下でのRu-NQR測定を行うと同時に、核四重極共鳴周波数と関連が深いと考えられる熱膨張係数の測定を磁場中で行う(島根大学との共同研究)。また、URu2Si2と非磁性参照物質LaRu2Si2やThRu2Si2との比較を通して、URu2Si2の特異性を抽出する(原子力研究開発機構との共同研究)。SmB6とURu2Si2については、研究成果を強相関電子系に関する国際会議SCES2014(7月仏国)にて報告する予定。測定技術に関しては、前出の3He冷凍機について測定プローブの製作に取り掛かり、今年度中の完成を目指す。
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J. Phys. Soc. Jpn.
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巻: 82 ページ: 103704(4ページ)
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