研究課題
基盤研究(C)
本年度は、微小空間における超音波測定を高精度に行うため、装置の開発とその試運転を行った。本年度得られた結果について紹介する。SmNiC2は電荷密度波(CDW)と強磁性が共存する興味深い系であり、両者の秩序変数が密接に相関した極めて稀な物質である。この系のCDW転移温度近傍と強磁性転移近傍の弾性定数を精緻に測定し、縦波および横波に現れる弾性異常の相違を発見した。この結果から横波にのみ、両相転移の異常が大きく観測されることが明らかになり、横波格子歪みを間接あるいは直接媒介とする相転移であることが分かった。得られた弾性異常から秩序変数と格子歪みとの結合定数あるいは秩序変数同士の結合定数を微視的に見積もり、この物質群のデータベース作成にも寄与した。この結果は一連の物質群である斜方晶RNiC2 (R:希土類)の電子状態、低励起状態を明らかにする上で重要な示唆を与えることとなる。特にこの物質群で唯一超伝導転移を示すLaNiC2について、その超伝導発現機構と電荷密度波との相関関係を明らかにする上で弾性定数で得られる微視的情報が活用されることとなる。本研究の目的には設置していなかったが、研究を進めていく上で新たな課題と発見があった。微小試料を用いて、一軸圧力の超音波測定を実現したことである。行った物質は鉄系超伝導物質である。この系は一軸異方性が電子物性、構造特性で極めて大きいことが明らかにされており、外部から一軸圧力を印加することで電子物性に大きな変化がもたらされると期待されている。この状況は静水圧と一軸圧の圧力応答が大きく異なることからも実験的に実証されている。本研究で開発した装置を用いて一軸圧力下のBaFe2As2の構造相転移近傍における弾性定数を精緻に測定し、一軸圧力を印加することにより転移温度が著しく上昇し、弾性異常が著しく抑制されることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
当初目的としていた装置の開発と試運転を終え、概ね順調に進んでいると考えられる。また、当初目的に無かった副産物も得られ、あらたな研究分野の開拓と進捗が得られた。但し、問題点も挙げられる。研究目的に挙げていた極小試料での測定ではなく、前述した系は従来の測定装置でも努力次第で測定出来得るサイズのものであった為である。この隙間を埋めるべく、更なる試料測定プローブの小型化を検討する必要もある。
上述した斜方晶RNiC2 (R:希土類)の系について、更に研究を進めていく。特にこの系では希土類のイオン半径が小さくなると電荷密度並(CDW)がより増強される。この様子は、体積変化(格子定数の変化)に伴う転移温度の上昇と転移温度での電気抵抗の上昇で確認される。最もイオン半径の大きいR = LaではCDWの変化が観測されない。(電気抵抗にフェルミ面のネスティングに起因した上昇が観測されていない)このCDWが観測されない系で超伝導転移が生じている。この事実は、CDWと超伝導が相図上で拮抗(競合)状態にあることを連想させる。従って、圧力下での超音波測定はCDWの発生と消失を連続的に弾性特性の側面からアプローチ出来る有力な手段となる。この様な背景のもと、圧力下での超音波をRNiC2物質群で推進していく予定である。また、一軸圧力測定についても強力に研究を推進していく。鉄系超伝導に留まらず、強相関系物質全般に対象範囲の裾野を拡大していく。
該当無し
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 1件)
J. Phys. Soc. Jpn
巻: 82 ページ: 033602 - 033606
10.7566/JPSJ.82.033602
Journal of the Korean Physical Socirty
巻: 60 ページ: 0001-0004
Solid State Communications
巻: 152 ページ: 680 - 687
10.1016/j.ssc.2011.12.006
巻: 81 ページ: 024604 - 024609
10.1143/JPSJ.81.024604