研究実績の概要 |
本研究の主要実験手段である超音波測定は、測定試料の両面に電気信号を超音波信号に変換する圧電素子(トランスデューサー)を接着し、入力信号と試料内を伝搬・反射を繰り返して出力された出力信号を比較し、試料内の伝搬により生じる信号の振幅および位相差の変化から音速および超音波吸収を測定している。この測定手段では、試料長が大きい程、得られる出力信号のS/N比が向上し、測定分解能の向上に繋がる。そのため、微小な試料を用いた超音波測定は困難がつきまとう状況であった。今回、微小試料を用いた測定を可能にするため、本研究室で自作した小型かつ薄型の圧電素子を用いることで測定周波数を著しく向上させ、小さい試料に超音波の有効波数をより多く入力することが可能となり、形状を小さくすることで、微小な試料に圧電素子を接着することが可能となった。圧電素子の微細加工技術向上に依るものである。この装置を用いて、これまで大きいサイズの単結晶育成が困難であった試料について超音波測定を行った。具体的には希土類Pr、Smイオンを基礎にした籠状物質、電荷密度波転移と磁気転移が共存するSmNi2CおよびEuX4, SrX4 (X=Al, Ga)について主に測定を行った。従来のスピン自由度とは異なり軌道自由度が主役となる量子臨界点の出現が期待される。実際、籠状物質PrTr2Al20(Tr:V, Ti)では低温で出現する四重極転移とその特性を明らかにし、非クラマース二重項が伝導電子に強く遮蔽された状況にあることを、弾性定数の温度変化から明らかにした。 SmNi2Cは電荷密度波(CDW)転移と磁気秩序が共存する系として注目を集めている物質である。この系の超音波を用いた弾性定数を測定しCDW転移と磁気秩序転移に伴う弾性異常から、この系における電子系と格子系の結合定数、秩序変数の決定を行った。
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