研究課題/領域番号 |
24540355
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
内藤 智之 岩手大学, 工学部, 助教 (40311683)
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研究分担者 |
藤代 博之 岩手大学, 工学部, 教授 (90199315)
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キーワード | コバルト酸化物 / スピン状態転移 / 金属・絶縁体転移 / X線吸収分光 |
研究概要 |
コバルト酸化物Pr-Ca-Co-Oでは3価のCoイオンのスピン状態が温度を下げていくと高(もしくは中間)スピン状態から低スピン状態に変化転移する。そして、このとき同時に金属から絶縁体に転移する。我々は、この金属・絶縁体-スピン状態同時転移がPrイオンの価数変化によって誘起されていることを放射光X線吸収分光測定(SPring-8のビームラインBL01B1を利用)から明らかにしてきた。また、我々は強磁場印加によってこの転移が完全に抑制されることを見出している。そこで、磁場中相転移とPr価数の関係を明らかにするために、SPring-8のビームラインBL22XUでパルス磁場(最大印加磁場40テスラ)中、BL39XUで定常磁場(最大10テスラ)中における放射光X線吸収分光測定をそれぞれ実施した。その結果、どちらの実験においても磁場誘起のPr価数変化を観測することに成功した。つまり、この転移に対する磁場効果においてもPr価数の変化が重要な役割を担っていることが明らかとなった。定常磁場の実験でPr価数が一旦増加した後再び減少するという異常な振る舞いが観測されたが現時点では原因不明である。今後、この現象が本質的であるか否かを含めてその起源を明らかにする必要がある。Coサイトへ他の遷移金属元素を置換し、転移への影響とCoイオンの価数について調べた。その結果、4価のMnイオンを置換した場合は転移温度が上昇したが、3価のFeまたはNiイオン、2価のCuイオンを置換した場合、転移温度は減少した。特にFeもしくはNiを置換した場合、それぞれ5%および2%の置換量で転移が完全に消失した。今回得られた元素置換効果の結果はキャリアドープの観点からほぼ説明できる。また、FeまたはNi置換の結果は強磁性金属が内部にあることから磁場効果の転移抑制と類似の機構で説明できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標としていた強磁場印加による転移の抑制とPrイオンの価数変化の関係について明らかにすることが出来たことは「順調」と評価できるが、もう一つの目標であったCoイオンの価数測定の実験がマシンタイムの制限から実施できなかったため上記の達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
Pr-Ca-Co-Oに物理的圧力を印加すると金属・絶縁体-スピン状態転移が誘起されることが知られているが、これは磁場印加とは逆の振る舞いである。その起源をPr価数変化の観点から明らかにする。また、物理的圧力は圧縮効果を与えることは出来るが、逆の引張り効果は期待できない。しかし、薄膜は基板を選ぶことでどちらの効果も与えることが出来る。そこで薄膜を用いた実験を行い、圧力と転移の関係を系統的に理解することを試みる。また、今年度の定常磁場中のX線吸収分光実験で観測されたPr価数の異常な振る舞いの原因を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度後期にSPring-8で計画していた実験の申請が不採択となったため、旅費および実験に関わる経費(ビームライン使用料、液体ヘリウム利用料)を次年度に繰り越すことになった。 次年度はSPring-8での実験に加えて他の放射光施設での実験を計画しており、繰越した研究費は2014年度請求の研究費と合わせて出張実験に関わる費用に使用する。
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