研究課題/領域番号 |
24540355
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
内藤 智之 岩手大学, 工学部, 助教 (40311683)
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研究分担者 |
藤代 博之 岩手大学, 工学部, 教授 (90199315)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コバルト酸化物 / スピン状態転移 / 金属・絶縁体転移 |
研究実績の概要 |
コバルト酸化物Pr-Ca-Co-Oでは3価のコバルトイオンのスピン状態転移と同時に金属・絶縁体転移が起こる。我々はこれまで、この金属・絶縁体-スピン状態転移がトレランス因子、Aサイト平均イオン半径およびランダムネスなどの格子パラメータに強く依存することやPrサイトを置換する希土類元素のイオン半径がPrより小さい場合(格子が収縮)は転移が出現するが大きい場合(格子が膨張)に転移が起こらないことを見出してきた。また、物理的な静水圧印加によって格子を収縮させると転移温度が上昇することが報告されている。そこで、格子系と転移の相関をより詳細に明らかにすべく、今年度はPr-Ca-Co-O単結晶薄膜を作製しその物性を評価した。薄膜は基板の格子定数を適切に選択することで格子を伸縮させることが可能であり、物理的圧力では不可能な格子膨張時の知見が得られると考えた。単結晶薄膜はパルスレーザー堆積法を用いて作製した。Pr-Ca-Co-Oより格子定数が小さい基板の場合、電気抵抗率に金属・絶縁体-スピン状態転移の兆候を示す傾きの変化が現れたが、格子定数が大きい基板の場合は全ての薄膜試料で転移の兆候は観測されなかった。この結果は、上述の置換RE元素のイオン半径と転移の関係と矛盾しない振る舞いであり、この転移には格子収縮が不可欠であることが明らかとなった。今後は、膜厚を増加させてバルク試料に近づけた厚膜試料を金属有機化合物分解法で作製し評価することで、薄膜試料で観測された現象と基板拘束の相関を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度実施予定であった2つのテーマのうち、薄膜試料を用いた金属・絶縁体-スピン状態転移に対する基板圧力効果の実験に関しては、単結晶薄膜の作製に成功し、基板の格子定数に依存した転移の出現と抑制の兆候を捉えることが出来たことから「概ね順調」と評価できる。しかし、もう一つの磁場中放射光X線吸収実験は、利用予定であったSPring-8のビームラインBL39XUの超伝導マグネットの故障により実施出来なかった。以上から上記の達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施出来なかった磁場中放射光X線吸収実験を実施し、Prイオン価数の異常な温度依存性やCoイオンの価数変化を明らかにする。また、薄膜試料において明瞭な転移を観測すべく、より良質な単結晶薄膜を作製して転移と引張および圧縮応力の関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
利用予定であったSPring-8のビームラインBL39XUの超伝導マグネットの故障により実験が出来なかったため、旅費および実験に関わる経費(ビームライン利用料、液体ヘリウム利用料等)が未使用となった。今年度が研究期間の最終年度であったため補助事業期間延長を申請し承認された(2015年3月20日)ので未使用分を翌年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
当該ビームラインに新規に超伝導マグネットが導入されたので、磁場中放射光X線吸収実験は可能になった。繰越経費は主にSPring-8出張実験の旅費および実験に関わる経費に使用する。また、薄膜作製に用いる基板等消耗品費や得られた成果を発表するための学会参加に伴う費用(旅費等)に使用する。
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