コバルト酸化物Pr-Ca-Co-Oでは3価のコバルトイオンのスピン状態転移と同時に金属・絶縁体転移が1次相転移で起こる。我々は、この同時転移が格子パラメータに強く依存することやPrサイトを置換する希土類元素のイオン半径がPrより小さい場合(格子が収縮)は転移が出現し、大きい場合(格子が膨張)は転移が消失することを見出してきた。そこで、格子系と転移の相関をより詳細に明らかにすべく、平成26年度はPr-Ca-Co-O単結晶薄膜をパルスレーザー堆積法で作製しその物性を評価した。Pr-Ca-Co-Oに圧縮応力が掛かる場合、その薄膜の電気抵抗率に金属・絶縁体-スピン状態転移の兆候を示す傾きの変化が観測された。バルクと同様な一次相転移にならなかった原因が基板による格子拘束にあると考えて、今年度は基板の影響が緩和されるPr-Ca-Co-O厚膜を溶液法によって作製することを試みた。その結果、仕込組成通りのPr-Ca-Co-O厚膜を得ることには成功したが、厚膜試料においても転移を観測するには至らなかった。溶液法でPr-Ca-Co-O厚膜を作製可能という新しい知見は得られたが、薄膜試料においてこの同時転移がブロードになる原因は未解決の課題として残った。研究期間内で以下の知見を得た。1)SPring-8における放射光X線吸収分光実験からPr価数が転移をまたいで3価と4価の間で変化し、これが転移のトリガーとなること。また、Prの一部をTbで置換した試料ではTbも価数変化を示すことを見出した。2)強磁場下ではこの転移が完全に抑制されることを初めて見出した。その後、定常およびパルス磁場中における放射光X線吸収分光実験から磁場中においてもPr価数変化が転移と密接に関係していることを明らかにした。
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