研究課題/領域番号 |
24540356
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 雅恒 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50211850)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水素化合物 / ペロブスカイト構造 / パラジウム / 超伝導 |
研究概要 |
ペロブスカイト構造を有するSr1-xBaxPdH3-δを本研究者が開発した水素化合物合成法を用いて作製し,超伝導転移の有無を調べた。試料Sr1-xBaxPdH3-δは以下のように作製した。まず粒状のSr、Baと粉末のPdをモル比1.1:1で混合し、ヘリウムガスで満たされたグローブボックス中の高周波溶解炉を用いて合金Sr1-xBaxPdを作製した。次に、この合金と水素源となるCaH2とCuOの粉末を混合してペレット状に成型したものを石英管の中に離して入れて真空封入した。水素源を150℃に加熱し、合金を室温にして24時間保った。得られた試料に対して粉末X線回折を行った結果、単相のSr1-xBaxPdH3-δが得られたことが分かった。SrPdH3-δは立方晶であるが、x(Ba)≧0.7では正方晶になった。Ba量が増加すると、格子が大きくなり、Pd-Hの結合が保たれずc面内で水素欠損が生じたためと思われる。次に、これらの試料に対して超伝導転移の有無を調べるためSQUID磁束計を用いて直流磁化率を測定した。その結果、いずれの試料もパウリ常磁性で金属的ふるまいを示したが、2 K以上では超伝導転移は確認できなかった。その原因の一つとして、水素欠損による伝導面の乱れが考えられる。また、電子-格子相互作用が弱いことが考えられる。WIEN2kを用いてバンド計算を行った結果、Sr1-xBaxPdH3では、フェルミ準位での状態密度、特に水素の部分状態密度が小さいことが分かり、これが電子格子相互作用が弱いことの原因であると結論付けた。また、SrをBaに置換していくとHの部分状態密度が大きくなるという計算結果が得られたが、Ba量が増えると実際の試料では水素が欠損してしまった。しかし、BaPdHまで水素量が減少すると、さらにHの部分状態密度が大きくなることがバンド計算から分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究者が考案した簡便で安全な水素化合物合成法により、ペロブスカイト構造のSr1-xBaxPdH3-δを実際に合成することができ、この合成法の有用性が確かめられた。また、作製したSr1-xBaxPdH3-δは、残念ながら超伝導化はしなかったが、バンド計算を用いた考察により、新規な水素化合物超伝導体の創製に向けた新たな有用な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ペロブスカイト構造を有するSr1-xBaxPdH3-δが超伝導転移を示さなかった最大の原因は、電子-格子相互作用が弱いことであった。今後は、電子-格子相互作用を強くするため、以下の研究を行う。電子-格子相互作用が弱い一つの原因は、フェルミ準位でのHの部分状態密度が小さいことであった。これはSr1-xBaxPdH3では、Pdの形式価数が+1でPd 4d軌道が水素よりかなり高いエネルギーに位置するためPdの4d軌道ととHの1s軌道の混成が小さいことによる。Pdの価数を上げればエネルギーは低くなる。それにはHの一部を高価数の酸素に代えることが考えられる。そこで、ペロブスカイト型酸水素化合物に着目する。また、ペロブスカイト構造ではHはPdと2配位となる。この配位数を上げれば電子-格子相互作用は強くなる。そこで、ペロブスカイト構造ではなくアンチペロブスカイト構造のMPd3H(M=Mg, Ti等)に着目する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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