研究課題/領域番号 |
24540356
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 雅恒 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50211850)
|
キーワード | 超伝導 / 水素吸蔵 / 酸水素化合物 / ペロブスカイト構造 / 銅酸化物 |
研究概要 |
前年度までの研究から,ペロブスカイト型水素化合物では,水素の価数がマイナス1価と絶対値が小さいために金属イオンの価数が大きくならない.すなわち,イオン化エネルギーが小さく,そのバンドのエネルギー準位は浅いため,水素の1s軌道のエネルギーバンドとの重なりが小さく共有結合性が弱い.これが電子格子相互作用を弱めていると考え,水素の一部をマイナス2価の酸素に換えたペロブスカイト型酸水素化合物に着目した.まずは代表的な銅酸化物超伝導体YBa2Cu3O6+xへの水素導入を行い,酸水素化合物作製のための基礎情報を得ることにした. YBa2Cu3O7は通常の固相反応法を用いて作製した.水素化は独自に開発した方法を用いた.水素源となるCaH2とCuOの粉末を混合してペレット状に成型したものとYBa2Cu3O7を石英管の中に離して入れて真空引きした.また,これまでの水素化装置に圧力計を取り付け,水素圧をモニターできるように改良した.水素源を150℃に加熱し,YBa2Cu3O7を100-160℃に保った.水素圧は1気圧とした.水素量は水素圧の減少量から見積もった.また,保持時間を系統的に変えて水素量を制御した.得られた試料に対して粉末X線回折(XRD)と直流磁化率測定を行った.まず,YBa2Cu3O7の水素化温度が110℃以上ではa軸長が伸び,水素吸蔵が確認された.しかし,水素化温度が増加するとXRD像のピークはブロードになり試料が分解している可能性があるので,最も低い110℃と決定した.水素量が増えるとともにa軸長が伸び水素量が約0.8でほぼb軸長と一致し斜方晶から正方晶に変化したことが分かった.水素量が増加しても超伝導転移温度はほとんど変化せず,超伝導体積分率が低下し,水素が入った領域は超伝導が抑制されることを示している.この超伝導抑制の原因は現在不明である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究者が考案した簡便で安全な水素化合物合成法により代表的な銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7への水素を導入することに成功し,この合成法の有用性が確かめられた。また、圧力計をとりつけることにより水素量の見積が可能となった.110℃という低温でも水素を導入可能であることが分かった.水素を導入したが超伝導は抑制されてしまったが,酸水素化合物超伝導体の創製に向けた新たな知見が得られたことは有意義な成果であるである。
|
今後の研究の推進方策 |
代表的な銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7への水素導入が超伝導転移温度を上昇させるという予測であったが,逆に超伝導は抑制された.この超伝導を抑制した原因を明らかにすることは,水素に起因する高温超伝導発現を実現するためには重要である.そこで,酸素量を減らしたYBa2Cu3O6.5やYBa2Cu3O6への,また,格子定数の異なるNdBa2Cu3O7やYbBa2Cu3O7への水素導入を行い,結晶構造,および超伝導特性の変化を調べる.また,酸水素化合物の合成のための基礎情報を得るために,酸素量や格子の大きさにより,水素の入りやすさ,水素導入温度がどう変化するのか,水素が何度で脱離するか等を調べる.また,この物質で水素が酸素とイオン交換することは可能か,その合成条件を調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額です。 平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
|