研究課題/領域番号 |
24540357
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 物性実験 / 誘電体 / 磁性 |
研究概要 |
本研究は、いくつかの有機ダイマーモット絶縁体において近年発見された特異的な誘電応答に関する研究である。この誘電応答は従来は電荷の自由度が消失したと考えられていたダイマーモット絶縁体状態においても、ダイマー内電荷自由度が残存する可能性を示唆しており、kappa-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の量子スピン液体的振る舞いとの関連や強誘電体の可能性が議論され始めた。電荷自由度とともにスピン自由度ももつモット転移系物質では、電荷-スピン自由度の結合した特徴的な物性を示すことが期待され、またその現象を理解することで、新たな機能性物質の開拓が可能となる。本年度は、四角格子系、反強磁性ダイマーモット絶縁体beta'-(BEDT-TTF)2ICl2における誘電特性を詳細に調査し、ダイマー配列方向の誘電率に大きな異常が現れることを確認した。また、この異常の振る舞いは電気双極子モーメントの存在を示すと考えられるキュリーワイス的な温度依存性を示すとともに、ガラス的な低周波応答を示す。詳細な解析から、電荷の偏りは自由電子の0.1個分程度、電荷ドメインの凍結は23Kと見積もられた。そのため、実際の電荷自由度の凍結を調べるために焦電流法による分極測定を行い、その結果、この系が小さいが電気分極を持ちうることが分かった。ただし、過去のNMR測定などでは電荷の不均化等の報告がないように、この分極は自発的ではなく電場によって誘起された準安定なダイマー内の電荷不均化状態が温度の低下とともに磁気転移点近傍で凍結したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定されていたbeta'-(BEDT-TTF)2ICl2の誘電応答の異方性や非線形性に関する測定は順調に進んできており、特に問題もなく達成され、有機分子性ダイマーモット絶縁体においては一般的には困難な電気分極の観測にも成功している。そのため、平成25年度に予定していた磁場中での測定なども一部進行中である。ただし、この系において当初想定されていたダイマー内電荷自由度の不均化によるリラクサー的な応答については概要に述べたように、基底状態というよりは準安定状態をとらえたと考えられるため、いくつかの計画の変更を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
beta'-(BEDT-TTF)2ICl2の誘電率異常が自発的な電荷の秩序や不均化によるものとは考えにくいものの、電場誘起の電荷不均化状態が存在していることを示すラマン散乱がごく最近観測された。そのため、誘電率の異常がダイマー内電荷の自由度の揺らぎを検出できている可能性は高い。しかし、一般的には、電荷自由度の揺らぎの原因には、電荷の秩序状態、ガラス的ドメイン形成、準安定分極状態など、いくつか考えられる。また、最近理論的に指摘されている分子内の電荷自由度についても調査の必要があり、これらの電荷自由度の原因と誘電異常の振る舞いの分類を行う必要があると考えられる。そのため26年度に予定されていた様々な物質系での誘電異常の探索を早めに行うことにする。磁性との関連性については予定通り行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を予定通り推進したことに伴い発生した僅かな未使用額であり、平成25年度請求額と合わせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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