研究課題/領域番号 |
24540357
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
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キーワード | 電荷自由度 / 誘電率 / 分子性導体 |
研究概要 |
本研究は、近年いくつかの有機ダイマーモット絶縁体等において発見された誘電異常に関する研究である。この誘電応答はこれまで分子ダイマー内において電荷の自由度が消失したと考えられていたダイマーモット絶縁体状態においても、ダイマー内の片方の分子に電荷が偏るという電荷自由度が残っている可能性を示唆しており、kappa-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の量子スピン液体的振る舞いとの関連や強誘電体の可能性が議論されている。電荷自由度とともにスピン自由度を持つモット絶縁体転移系物質では、電荷-スピン自由度の結合した特徴的な物性を示すことが期待され、またその現象を理解することで、新たな機能性物質の開拓が可能となると考えられる。 本年度は、分子内での電荷自由度による電荷秩序を示す(TTM-TTP)X(X=AuI2,I3)における誘電性を調査した。(TTM-TTP)I3は1次元的な分子配列をとり、TTM-TTPの長い分子構造のため、分子内の2つのフラグメント間の電荷が偏るような電荷秩序を起こすことで、金属ー絶縁体転移を示すことが知られていた。この分子内電荷自由度に関連した誘電率の測定を行ったところ、分子の長軸方向に顕著な誘電異常を観測した。この異常は、電荷秩序転移より低温で現れるため、何らかの乱れの影響で、高温生じる電荷秩序転移点でペアを組むことが出来なかった電荷(ホール)が応答していると考えられる。一方、X=AuI2では高温での電荷秩序は起こさないが10Kでスピンシングレット転移を起こすことが知られている。この物質でも分子長軸方向に異常が観測され、乱れ等の影響による電荷ゆらぎと考えられる。この電荷ゆらぎは10Kの磁気転移点に向かって減少しており、その周囲の電子状態の変化が反映されていることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイマー型モット絶縁体系のリラクサー的な誘電異常が電場によって誘起され、試料内の局所的な領域におけるダイマー内電荷の偏りが見られることが明らかになってきた。これを踏まえて他の系での電荷ゆらぎや乱れに関して調査してきた。その結果、分子内電荷秩序系の(TTM-TTP)Xにおいても、大きな周波数分散や異常の出現する温度などから乱れの影響が大きく関わっていることが明らかになってきた。また同時に誘電異常は、スピンシングレットや反強磁性などの磁気転移が起こるところで抑制されている傾向にあることも分かってきており、電荷とスピン自由度の関連が次第に明らかになってきた。このように物質系の違いを観測することで新たな知見が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
電荷ゆらぎや誘電異常には電子系の乱れの影響が大きく関わっていることが明らかになってきた。この乱れとしては格子や分子の欠陥だけでなく、電子系の状態の本質的な乱れもある。これらの違いを詳細に知るため、電荷グラス的振る舞いを示す物質での誘電性の調査や強誘電性を示す物質や2次元的な電荷秩序を起こす系との違いを調査していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究を効率よく実施したことに伴い発生した未使用額である。 次年度使用額は、平成26年度請求額と合わせ、平成26年度の研究遂行に効率的に使用する予定である。
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