研究課題/領域番号 |
24540359
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小坂 昌史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20302507)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 磁性 / フラストレーション / 低温物性 / 希土類金属間化合物 |
研究概要 |
本計画の研究対象として採り上げるYb4LiGe4は磁気的なフラストレーション効果が期待される希土類金属間化合物である。本年度はYb4LiGe4ならびに母物質であるYb5Ge4の純良試料の作製とその基礎物性を明らかにすることを目標とした。試料作製においてはYbの蒸発を防ぐため、高融点金属であるモリブデンにて作製した坩堝に試料原料を密封し高周波炉にて加熱・溶解する方法を用いた。熱処理過程を工夫することにより、Yb4LiGe4, Yb5Ge4共に純良な単相多結晶試料を作製することができた。 得られた試料を用い比熱測定を行った。Yb5Ge4においては1.8Kにおいて磁気秩序と考えられる明瞭なラムダ型の比熱異常を初めて観測した。さらに転移温度直上から約6Kにかけてショルダー型の比熱が観測され、常磁性領域においても何らかの磁気的な自由度が残っていることを見出した。3種類のYbサイトを持つYb5Ge4の1つのサイトをLiで置換したYb4LiGe4では磁気転移における比熱のピークが抑制され、その代わりに転移温度以上のショルダー型の比熱が増加する傾向が見られた。この振る舞いがLi置換による結晶構造の2次元性の増強により、フラストレーション効果がより顕著になった結果であるかどうかの検証は今後の課題である。両物質とも、X線吸収分光実験により求められたYbの平均価数が報告されている。その価数を考慮し、Yb 1原子当たりに換算したエントロピー変化を見積もると、Yb5Ge4, Yb4LiGe4ともに10K程度でおよそRln2になる。つまり、Ybの結晶場基底状態はクラマース2重項であり、その磁気的な自由度の凍結過程がLi置換により大きく変化することが明らかとなった。また、磁化測定から求められた有効ボーア磁子はX線吸収分光実験より示されたYbの2価、3価状態の割合で説明できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標であった、Yb4LiGe4およびYb5Ge4の純良な単相試料の作製とその基礎物性測定を実施することができた。そして、両者の比較から、Li置換による物性の変化を議論するための情報が得られた。さらに考察を進めるためには単結晶試料による物性測定が必要となってくる。本年度は計画を前倒しして、単結晶試料の育成にも挑戦した。Yb4LiGe4に関しては、組成比と同じ仕込み量で幾度か熱処理を変えたブッリジマン法を試みたものの、物性測定が可能なサイズの単結晶を得ることはできなかった。そこで、構成元素である低い融点を持つLiを溶媒として用いたフラックス法による作製を行った。その結果、目的の物質と異なるYbLiGeならびに1:1:1の組成に近いYb5Li4Ge4が析出することがわかった。以上のことから、Liを溶媒としたフラックス法では目的物質の単結晶育成は不可能であることが判明した。現状ではYb4LiGe4の単結晶育成は困難な状況にあると言わざるを得ない。 一方、Yb5Ge4に関してはブリッジマン法により磁化測定可能なサイズの単結晶育成に成功した。基礎物性測定を行い、磁気異方性に関する詳細な情報が得られつつある。Yb5Ge4もまたYb4LiGe4に類似した比熱異常が2~3K付近に観測されることに加え、磁化の温度変化においても同様の温度領域で異常が観測されることが本研究で初めて明らかとなった。磁化測定における異常はYb4LiGe4ではほとんど見られないことより、Yb5Ge4は研究対象物質としてより適当な可能性がある。上記のような事実が判明したことが本年度の一番の成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、単結晶の育成に成功したYb5Ge4の物性を詳細に調べる方向で研究を進める。比熱測定より、Yb5Ge4においても磁気秩序と考えられる転移温度以上に、明瞭な磁気的自由度を示唆する比熱異常が観測されており、この起源を明らかにすることはYb4LiGe4の物性研究においても重要であると考える。また、Yb5Ge4は1.8K付近で長距離秩序を示唆するラムダ型の異常が比熱測定において観測されたが、極低温であるため磁化測定ではまだ、その異常を観測できていない。実験にはHe3を用いた磁化測定装置が必要になり、共同研究者の協力を得て実験を進めていく予定である。さらに、転移温度以下やそれ以上の温度において、内部磁場が存在するかどうかμSR実験によって明らかにしていく。 試料作製に関しては、超音波による弾性定数測定の実験に耐えるサイズまでYb5Ge4の単結晶を大型化していく努力を続ける。Yb4LiGe4の単結晶試料作製についてはこれまでの方法では限界があることが明らかになったことから、高圧合成での育成に重心を移す。また、Yb5Si4においても同様の現象がさらに低い特性温度を持って実現している可能性があり、量子臨界性という観点からも興味が持てる。Yb5Si4の単結晶試料の育成にも挑戦していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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