研究課題
基盤研究(C)
本研究は、金属絶縁体転移を起こす5d遷移金属パイロクロア酸化物の代表例として知られるCd2Os2O7の転移の起源を、結晶作製と各種物性測定を通して探ることを目的としている。初年度のH24年度実施計画では、物性測定のための大型単結晶を作製、結晶格子の対称性と磁気構造の決定を行うことを目標としていた。H24年度においては、温度勾配を精密にコントロールできる管状炉を用いた化学輸送法により、初めてCd2Os2O7の大型単結晶の育成に成功した。現在では、3mm角程度の単結晶を得られることができている。結晶格子の対称性の決定は、放射光X線回折、電子線回折及びラマン散乱を用い、相転移前後で微小な歪も含めて対称性が変化しないという重要な結果を得た。磁気構造の決定には、放射光共鳴X線磁気散乱法を用いて実験を行い、これまで中性子線回折法で報告されてなかった低温相での磁気ピークを明瞭に観測した。これは、5d遷移金属元素に対する共鳴効果が非常に大きいためであり、5d元素では磁気形状因子が広がることで観測が困難になる中性子線回折と比較して、共鳴X線磁気散乱が極めて有用な方法であることも証明している。これらの結果と群論的考察を組み合わせ、Os上のスピン配列がOs四面体上でall-in/all-out配列を取ることを導き出した。この配列は、磁気対称性として立方晶を保つ非常に美しい配列である。また、この配列は一軸異方性を起源としていると推測され、本来存在するはずのスピンフラストレーションを壊していることも示唆できる。金属絶縁体転移は、このスピン配列の形成に伴うリフシッツ型の相転移であることを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
放射光共鳴X線磁気散乱法を用いた実験により、低温相での磁気ピーク観測に成功し、かつ、群論的考察を組み合わせにより、Os上のスピン配列を導き出すことができた。これにより、第一の目標、低温相での磁気構造決定をクリアしたことになる。
次の目標として、導き出した磁気構造が金属絶縁体をどのように引き起こすかを考える必要がある。現時点では、その起源は推測にすぎないが、今後、磁気構造を含めたバンド計算によりより詳細な議論が可能になると考えている。これについては、すでに行動研究が開始されている。物性測定については、核磁気共鳴、ホール効果、光電子分光法等により、より深い相転移の理解、電子構造の考察を行う予定である。また、本研究のさらなる発展を目標に、Cd、Osサイトへのドーピングを行い転移温度のコントロールを行う予定でいる。
高価な5d遷移金属元素の購入、及び、物性測定のための消耗品を購入に使用する計画である。未使用額も次年度の研究のために使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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