研究課題
本研究は、金属絶縁体転移を起こす5d遷移金属パイロクロア酸化物の代表例として知られるCd2Os2O7の転移の起源を、結晶作製と各種物性測定を通して探ることを目的としている。パイロクロア酸化物のような格子の幾何学的フラストレーションを有する系では、磁気秩序の抑制により何らかの新しい機構に基づくMI転移やフラストレーションを解消する特異な基底状態の出現が期待される。高品質の大型単結晶が化学輸送法により作製可能になり、この結晶を用いた放射光共鳴X線磁気散乱と群論を組み合わせた考察により、Os格子上のスピンがall-in/all-out配列を有していることが明らかになった。これはq=0の磁気構造を有するため、金属絶縁体転移の起源が、これまでのSlater機構ではなくLifshitz機構であることを示している。現在、さらなる考察を進めているところである。また、各原子サイトへの元素置換によって電子もしくはホールを注入することで物性をコントロールすることを試みた結果、OsサイトへのReドーピングによって、金属絶縁体転移温度以下で大きな抵抗率の低下、つまり、金属状態へ近づく結果が得られた。しかし、転移点はほとんど変化しておらず、現在、その原因を考察中である。この他、放射光共鳴X線磁気散乱によるall-in/all-outのドメイン観察や、低温超高圧下で絶縁相を金属化させる実験も共同研究者と行い成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
非常に良質の大型単結晶作製に成功したため、放射光共鳴X線磁気散乱を始めとする多くの実験が可能になった。
この物質の磁気的秩序状態は、特異な磁場応答、磁歪等が存在することが、最近、理論から提案されている。非常に対称性の高いスピン配列であるall-in/all-out磁気構造がもたらす新しい物理現象についての研究を行っていく予定である。
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