研究実績の概要 |
金属-絶縁体 (MI) 転移は、固体の中の電子系が示す最も劇的な現象の一つである。一般に電子相関が強い時やフェルミ面の不安定性があるとき、高温で伝導していた電子は低温で局在して絶縁体となる。特に最近、磁気的相互作用が競合するフラストレート格子を持つ系でのMI転移に興味がもたれている。その代表例として知られる5d遷移金属パイロクロア酸化物Cd2Os2O7は、227 Kで室温側での金属的な電気伝導から低温で絶縁体へと変化すると同時に磁気秩序を起こす。電気伝導と磁性を同時に担うOs原子同士を結んだ四面体は、3次元的に頂点共有したいわゆるパイロクロア格子を形成する。この格子には、局在スピンの配列に競合状態(スピンフラストレーション)が存在し長距離秩序を阻害するといった特徴があるため、どのような磁気構造が実現されているかに興味が持たれるが、1974年の発見以来、磁気構造の特定はおろか磁気ピークの存在も確認されてこなかった。 本研究では、精密温度制御が可能な電気炉を用いて、大型で高品質の単結晶育成に成功した。まず、電子線回折、ラマン散乱等の実験から、結晶格子が全く歪んでいないことを確認した。さらに、共鳴X線磁気散乱実験から結晶格子に対してq = (0, 0, 0)のコメンシュレートな磁気反射の存在を初めて見出した。群論に基づく議論から、Os原子上のスピンは、Os四面体上で全てのスピンが内側を向いたall-in配列と全て外側を向いたall-out配列が交互に現れるall-in/all-outの非共線型反強磁性スピン配列にあることが示唆される。MI転移の起源を考察した結果、これまでの磁気転移によるバンドの折りたたみを起源とするスレーター転移という解釈より、バンドのトポロジーが変化するリフシッツ型とみなせることを示した。
|