研究課題/領域番号 |
24540364
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川本 正 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (60323789)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機超伝導体 / 極性分子 / 2次元電子系 |
研究概要 |
極性溶媒分子が強誘電的に配列した絶縁層が互いに反強誘電的にドナー層を挟んだ構造を有する物質、kappa_H_-(DMEDO-TSeF)_2_[Au(CN)_4_](THF)の強磁場角度依存磁気抵抗において新しい現象を発見した。擬2次元系では伝導シートに対して水平近傍の磁場下では、面間方向の抵抗がピークをもつことが知られている。これは、たわんだシリンダー状のフェルミ面によるもので、ピーク幅から面間方向の相互作用を見積もることに利用されている。つまり、ピーク幅は磁場には依存しない。しかし、本物質ではピーク幅が強磁場ほど小さくなる現象を示す。解析の結果ピーク幅は面間方向の磁場の大きさでスケールされることを見出した。これは面間の相互作用が極めて小さいインコヒーレント系(面間方向に電子が移動する確率よりも面内で散乱される確率が大きい)において起こりうる、アンダーソン局在の一種として理論的に説明された。さらに、量子振動により観測されたフェルミ面が2種類あるが、これは結晶学的に異なる伝導シートのバンド充填率が異なる場合にのみ可能である。このようなバンド充填率の異なる伝導シートが絶縁層を挟んで積層している構造が可能なのは、絶縁層の極性分子の配列によると考えられる。極性溶媒分子が陰イオンを分極させて、ドナー層から抜き取る電子の数が2通りになったと説明できる。これは、極性溶媒分子の存在によって引き起こされた新規な電子状態である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、ドナー分子・アニオン分子・極性溶媒分子の3成分から構成される有機超伝導体kappa_H_-(DMEDO-TSeF)_2_[Au(CN)_4_](THF)における、極性溶媒分子の存在が引き起こす新規な電子状態を発見・解明した。もう一つの大きな目標である10 K級超伝導体(BEDT-TTF)_x_Cu(CF_3_)_4_(TCE)_y_の構造を確定するにはいたっていない。Ag(CF_3_)_4_塩の構造を確定したときと同じように、しばらく時間を要すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、有機超伝導体のなかでも、極性溶媒分子を含む絶縁層をもつ超伝導体に注目する。研究の全体構想は、このような特徴的な絶縁層による電気双極子モーメントと伝導層の伝導電子との相互作用に起因する、新しい電子状態の発見と解明である。結晶を構成する脇役でしかなかった、絶縁層を構成する分子の対称性に起因する、有機伝導体ならではの新奇な電子状態の発見を目的とする。 高Tc相が2つある有機超伝導体(BEDT-TTF)_2_Ag(CF_3_)_4_(TCE)のTc=9.5 K相の超伝導特性を明らかにするための磁気抵抗や磁気トルクの測定を行う。また、フェルミ面の形状を明らかにするための量子振動や角度依存性磁気抵抗の測定も行う。また、(BEDT-TTF)_2_Cu(CF_3_)_4_(TCE)の高Tc相の結晶構造を明らかにすることで、Ag(CF_3_)_4_塩の2つある高Tc相のどちらの構造が採られ易いのかを明らかにする。また、DMEDO-TSeF超伝導体の電流ー電圧特性の測定を行い、コスタリッツ・サウレス転移の可能性を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用予定の研究費があるのは、サンプルプローブの設計・工作が当初予定よりも遅れてしまったためである。これから仕上げていくにあたって、必要な消耗品として使用する予定である。平成25年度は(BEDT-TTF)_2_Ag(CF_3_)_4_(TCE)塩の磁気抵抗や磁気トルク測定を行う。そのために必要な機材を揃える。また、超伝導相での電流ー電圧特性の測定を行うことで、極性溶媒と伝導電子の相互作用の効果を見出すことを目指す。この測定は、コスタリッツ・サウレス転移の有無を明らかにする実験でもある。また、トンネルダイオードを用いた交流磁化率測定装置を作成する。この測定に必要な機材を導入する。測定システムが正常に作動しているかを明らかにするために、測定結果が報告されている常圧超伝導体を用いて装置のテストを行う。LC 共振回路と常圧超伝導体を用いた実験から磁場侵入長の見積もりも行う予定である。 また、高Tc相(BEDT-TTF)_x_Cu(CF_3_)_4_(TCE)_y_の構造が確定したら、この物質のフェルミ面の形状を明らかにするために、物質・材料研究機構の強磁場施設を利用して、量子振動の測定を行う。
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