研究概要 |
平成25年度は1994年に米国のグループで開発された有機超伝導体である(BEDT-TTF)_2_Cu(CF_3_)_4_(TCE)の高Tc相の構造を決定することに成功した。Ag(CF_3_)_4_塩では2種類の高Tc相が存在したが、Cu(CF_3_)_4_塩では1種類であることが過去の実験結果からも示唆されているため、安定な構造が判明することになった。具体的にはBEDT-TTFがk(kappa)型と呼ばれる井桁状に配列した層と、a'(alpha prime)型と呼ばれる捩じれながら積層した層が溶媒分子1,1,2-トリクロロエタン(TCE)を含有するアニオン層を挟んで交互に積層した層状の超伝導体である。Ag(CF_3_)_4_の2つの高Tc相と比較すると、Tc = 9.5 Kの三斜晶の相と同型のka'1型である。単位胞の体積がAg(CF_3_)_4_塩よりも小さいことは、アニオンの大きさを反映していると考えられる。また、同じ化学組成の低Tc相と異なり、アニオンと溶媒分子の乱れはない。溶媒分子TCEの立体構造にはCl原子の位置関係が異なる物同士(対掌体)、1:1の割合で結晶に含まれていることが明らかになったが、これは元の溶媒分子における存在比率を反映していると考えられる。BEDT-TTF分子の結合長からa'層は電荷秩序状態であることが明らかになった。したがって、超伝導を担うのはk層のみであり、伝導シート間距離が大きい極めて2次元性の強い物質である。磁気トルクと抵抗測定の結果から、Tc = 9.4 Kの超伝導体であることを確認した。磁気抵抗から決めた上部臨界磁場(Hc2)の温度依存性から見積もった伝導シート間方向のコヒーレンス長が伝導シートであるk層の厚みに比して十分に短いことから、本物質は2次元超伝導体であると考えられる。
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