平成26年度は1994年に米国のグループで開発された有機超伝導体である(BEDT-TTF)_2_Ag(CF_3_)_4_(TCE)の高T_c_相のひとつであるkappa-alpha'_1相の超伝導特性とフェルミ面を実験により明らかにした。この物質は電荷秩序層であるalpha'層と超伝導を担うkappa層がアニオンを挟んで積層した構造であるため、極めて伝導シート間距離が大きい。それにもかかわらず、面間方向の電気抵抗の温度依存性は通常のkappa型有機伝導体のそれと酷似していることを見出した。抵抗測定から見積もった超伝導転移温度は9.5 Kと磁気トルクの結果とよく一致した。また、上部臨界磁場の温度依存性から見積もった伝導シート垂直方向のコヒーレンス長はkappa層の厚みに比して十分に短いことから、この物質は2次元超伝導体であると考えられる。さらにこの物質の結晶学的に独立な分子の数が多いことから、分子の結合距離から見積もったバンド充填率のエラーが大きい。そこでkappa層が他のkappa型超伝導体と同様の1/2充填率バンドか否かを確認するために量子振動の実験を行った。量子振動の結果は実効的に1/2充填率バンドのシリンダー型のフェルミ面が存在することを明確に示した。また、バンド分散から計算されたサイクロトロン質量に比べて大きな有効質量が観測されたことから、超伝導転移温度T_c_が大きい物質ほど測定される有効質量と裸の有効質量の比が大きい傾向があると考えられる。
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