研究課題/領域番号 |
24540367
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
阿部 聡 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (60251914)
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研究分担者 |
松本 宏一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10219496)
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キーワード | 強相関電子系 / 低温物性 |
研究概要 |
本研究の目的は,熱膨張・磁歪および磁化・帯磁率の精密測定により,超低温極限環境における重い電子系物質の量子相転移にともなう量子臨界現象を解明することである。また,高圧環境での測定あるいは元素置換による量子臨界現象の圧力効果測定,強磁場環境による量子臨界現象の磁場効果の測定など,多重極限測定環境の開発を目指している。 典型的な重い電子系物質であるCeRu_2Si_2は,負の圧力領域に反強磁性量子相転移点を持つが,これまでに我々は超低温ではこれとは異なる量子臨界現象を見いだしてきた。また,CeRu_2Si_2は強い磁気異方性を持ち,これまで磁化容易軸であるc軸方向の測定が多くなされてきた。我々は,この超低温での新奇量子臨界現象を解明するため,引続き今年度も磁化難易軸であるa軸の熱膨張・磁気歪測定を,10mK・9Tまでの超低温・強磁場環境で行なった。測定精度をΔL(B,T)/L(B,T)~10^(-10)にまで向上させることにより,a軸方向においても約100mK以下で熱膨張係数に負の非フェルミ液体的な量子臨界現象があらわれ,臨界寄与の大きさはc軸の場合と同程度であること,一方,磁歪測定の結果は,9Tまでメタ磁性転移を示さず磁歪係数はc軸の約1/800であり強い異方性を示すが,100mK以下の温度では約0.5T以下の低磁場で負の磁歪係数が現れ,温度低下に伴い顕著になることから,非フェルミ液体的な量子臨界現象であることを明らかにした。これらの結果は,磁気難易軸方向においても容易軸方向と同程度の量子臨界効果が現れることから,超低温領域では新しい量子相転移が出現することを強く支持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超低温極限環境における新しい量子相転移の研究として,これまで0.05テスラに限られていた測定磁場を9Tまで拡張し,これまでほとんど測定が困難であった磁気難易軸方向の微小な磁歪を精密測定可能にした。その結果,100mK以上の高温領域では強い磁気異方性を示し,これまでに知られている反強磁性量子相転移と一致するが,100mK以下で顕在化する量子臨界現象の磁気異方性は小さく新しい量子相転移点に起因することが明確になった。さらに磁場の増加により磁歪係数の符号が負から正に遷移する過程を精密測定することができ,磁場制御の量子臨界現象であることを明らかにした。これらの結果は,研究目的の達成に大きな進展をもたらしたが,超低温実験に不可欠の寒剤である液体ヘリウム原料の入手難から液体ヘリウム供給が滞ったため研究遂行の一部に支障をきたした。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,超低温領域での新しい量子臨界現象の磁気異方性は小さいことを明らかにしたが,磁場に対して平行な方向の熱膨張・磁歪測定に限られているため,磁場と垂直方法に熱膨張・磁歪測定セルを設置した測定を実施し,新しい量子臨界現象の軸方向依存性を解明する。また,圧力環境測定として正の化学圧力効果をもたらす元素置換系試料の測定にる量子臨界現象の圧力依存性測定を進めるとともに,測定装置自身のバックグランドをより減少させるために,測定装置の高温真空熱処理による改良および新材料による測定装置の開発を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
発注した物品が値引きされたため次年度への繰越額が発生した。 繰越額は小額のため,次年度の使用計画の大幅な変更はない。
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