研究課題/領域番号 |
24540368
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
神原 浩 信州大学, 教育学部, 准教授 (00313198)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ブレーク接合 / トンネル効果 / ジョセフソン効果 / カイラル超伝導 |
研究概要 |
・MCBJ装置の開発とテスト実験 本研究での核となるMCBJ(mechanically controllable break junction)装置を立ち上げるにあたり,まず,プロトタイプとして室温大気中で作動するMCBJ装置1号機を製作し,エレクトロニクスを整備した後,銅線,金線を用いてコンダクタンス測定のテスト実験を行った。テストはG_0 = 2e*e/h = 1/(12.9 kohm)(e:電気素量,h:プランク定数)を単位とする量子化コンダクタンスのステップが観測されることを基準とした。破断寸前の10-20 G_0程度まで,ピエゾ素子により強制的に試料を引き伸ばした後,試料を放置し,自然に破断する過程をトレースする(自己破断法)ことで,明瞭なコンダクタンスステップを観測することができた。その経験を踏まえ,低温・真空中で作動する,よりコンパクトなMCBJ装置2号機を設計・製作し,液体窒素を用い,77 Kで銅線,金線に関して同様なテスト実験を行った。低温にすることで,コンダクタンスステップは室温時の測定のものに比べて明らかに鮮明となった。特に,金線の自己破断法による測定では,1G_0や2G_0といった量子化値に安定して留まる時間が,室温大気中では高々数秒であったのに対し,77 K真空中では10~20秒程度と,原子ワイヤーの寿命が10倍程度長くなることが分かった。また,コンダクタンス値の頻度を表すヒストグラムでは,特に1G_0,2G_0,3G_0の量子化値で安定することも示された。また,77 Kでの測定では,自己破断法の他に,完全に試料が破断するまで強制的に試料を引き伸ばす方法によっても明瞭なコンダクタンスステップとヒストグラムを観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MCBJ装置の開発および77 Kまでのテスト実験は非常に順調に達成することができた。現在は,4 K以下の低温下で作動させるため,GM冷凍機にMCBJ装置を設置し,低温超伝導体(鉛,スズ,等)でテスト実験を行う準備を行っている。GM冷凍機用のMCBJ装置3号機は新たに製作することにし,その設計を行った。また,真空下でGM冷凍機の底からMCBJ装置にアクセスするために,GM冷凍機のクライオスタットを改造し,ボトムローディングシステムとした。この部品に関しては製作を終えた状況である。当初の予定では,今年度にGM冷凍機でのテスト実験までを計画していたが,そこまでは到達することができなかった。次年度にこれを継続して,引き続き研究を推進していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでGM冷凍機を用いてMCBJ装置を冷却し,稼働させた先行研究の例は知られておらず,GM冷凍機の運転時に生じる振動の影響がどの程度あるのかは分かっていない。GM冷凍機にMCBJ装置3号機を設置し,MCBJ低温実験システムを構築した後,その評価を行うために,銅線や金線の既知試料を用いたテスト実験を行う。問題が生じた場合は,この時点でその解決を図る。その後に,GM冷凍機の通常運転時における約3 Kで,低温超伝導体(鉛,スズ,等)を用いたテスト実験を行う。電流-電圧特性の測定から,ジョセフソン電流やトンネルスペクトルのデータ取得を目指す。また,Sr2RuO4試料のMCBJ実験に向けた準備を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画で見込んだよりも実験や情報交換のための出張回数が少なかったため,次年度使用額を生じた。次年度は,これを研究遂行のために積極的に活用していく予定である。まずは測定システムの構築にあたり,必要な消耗品(真空関連部品や金属材料,電気関連部品,等)や備品を適宜購入し,研究環境の整備を進めていく。研究がある程度進んだ段階となったら,情報交換や議論を行うための出張を行い,旅費を有意義に活用していく予定である。
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