研究課題/領域番号 |
24540368
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
神原 浩 信州大学, 教育学部, 准教授 (00313198)
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キーワード | ブレークジャンクション / トンネル効果 / 単原子接合 / 超伝導接合 / 無冷媒低温MCBJ装置 |
研究概要 |
・GM冷凍機を用いた低温MCBJ装置の開発 今年度は,3 K以下でのMCBJ(mechanically controllable break junction)実験の実現のため,77 K 用に用いたテスト装置に改良を加え,新たなMCBJ装置を製作し,GM(Gifford-McMahon)冷凍機を用いた低温MCBJ装置の開発を行った。通常,MCBJ実験のような原子サイズレベルでの接合を制御する実験では機械的振動が測定に悪影響を及ぼすと考えられるため,試料の冷却は,通常,液体ヘリウムを用いた“静かな”環境で行われており,これまでGM冷凍機を用いたMCBJ実験の報告例はない。しかし,本学では液体ヘリウムを使用できる環境にないため,敢えてGM冷凍機による冷却を試みた。MCBJ装置をGM冷凍機コールドエンドからばねでつり下げ,熱リンクを兼ねた銅薄板を接続することでダンピング機構を設け,ばねつり方式による除振を試行した。その結果,テスト試料の金線のうち,破断の逆のつなぎ合わせる接合の過程で,GM冷凍機運転中の3 Kにおいても,コンダクタンストレースにおいて明瞭な量子化コンダクタンスを観測できる場合があることが分かった。コンダクタンスのヒストグラムでは77 Kで観測されたような1G_0(G_0:量子化コンダクタンス)での大きなピークも得られた。しかし,別の金線試料では,数G_0辺りのコンダクタンスプラトー領域で,約50%程度のコンダクタンスのゆらぎが常に観測される場合もあり,ヒストグラムでは,1G_0でのピークは存在するものの,ピーク高さは小さくなり,その替わりに1.3G_0に幅が極端に狭いピークが現れることも分かった。1.3G_0のピークは同じくGM冷凍機運転下7.0 Kでの常伝導状態におけるスズ線においても同様に観測され,GM冷凍機の振動由来のものであることが分かるが,そのメカニズムは不明である。現在までに,GM冷凍機を用いたMCBJ実験を安定して再現よく行うことには到達してない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
高価な液体ヘリウムを使用せずに3 K以下での低温MCBJ実験の実現を目指すため,GM冷凍機を使った低温MCBJ装置の開発を行ってきた。現在までのところ,GM冷凍機の機械的振動の影響を少なくするために,MCBJ装置をばねつり方式でぶら下げた状態で実験を行い,装置の性能を評価した。低温超伝導体(鉛,スズ)細線の微小抵抗の測定から明確な超伝導転移を観測可能であることは確認できたが,原子接点レベルでの接合制御では,テスト試料としての金線の量子化コンダクタンスが観測できる場合とできない場合があり,GM冷凍機による機械的振動の影響を完全には取り去ることができていない。低温MCBJ装置開発の確立までに至らなかったため,進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
GM冷凍機での低温MCBJ実験が困難な状況にあることから,カイラルp波超伝導体Sr2RuO4の超伝導接合実験の前に,同類で組成比の異なるペロブスカイト構造のルテニウム酸化物SrRuO3(T_c = 165 Kで強磁性転移)を用い,液体窒素温度(77 K)でのブレークジャンクション実験を進める方針とした。SrRuO3は薄膜によるデバイス作製が可能であるため,バルク試料でのブレークジャンクション実験の報告例はこれまでにない。しかし,バルクの接合実験にトライすることで,超伝導薄膜作製が困難なSr2RuO4の超伝導接合実験に見通しを与えるものとなり,他のペロブスカイト構造酸化物のブレークジャンクション実験の可否を知る上でも重要な布石となるものと考えられる。またSrRuO3は,強磁性転移温度が77 Kよりも高温であるため,MCBJ実験が液体窒素を用いた“静かな”環境下で実施できる。常磁性状態と強磁性状態でのコンダクタンスの変化を調べることで,鉄,コバルト,ニッケルなどのいわゆる強磁性遷移金属元素における単原子接合で最近見つかった近藤効果的なふるまいについて,酸化物磁性体で新たな知見が得られる可能性もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画からの研究進行の修正により,出張の機会を減らしたため,旅費に相当する分の次年度への繰り越しを生じた。 測定システムの整備と更なる充実にあたり,H25年度残額とH26年度経費を合わせて,必要な消耗品(真空関連部品や金属材料,電気関連部品,等)や備品を適宜購入する他に,情報交換や成果発表としての旅費を有効活用して,研究を遂行していく予定である。
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