研究課題/領域番号 |
24540372
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八島 光晴 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10397771)
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キーワード | 超伝導 / 強相関電子系 / 圧力効果 |
研究概要 |
平成25年度では、主に重い電子系超伝導体CeCoIn5とCeIrIn5において研究を進めてきた。重い電子系における超伝導は反強磁性量子臨界点近傍で発現することがしばしば確認され、磁性との関係に注目されることが多い。実際、CeCoIn5においても反強磁性量子臨界点近傍で超伝導が現れている。しかし、今回の研究で、このCeCoIn5に量子臨界点によってもたらされる反強磁性スピンゆらぎの影響をほぼ無視できるような領域まで圧力を加えても、非常に高い超伝導転移温度Tc(~ 1.7 K at 3.4 GPa)を維持していることが分かった。この高いTcを説明するには、反強磁性スピンゆらぎ以外の寄与を考慮しなければならないことを示唆しており、重い電子系における超伝導メカニズムの解明に貢献できる成果である。 CeCoIn5に対して、CeIrIn5は反強磁性量子臨界点から離れた圧力域で超伝導が発現し、その超伝導メカニズムは反居磁性スピンゆらぎ以外のもの(候補としては、価数ゆらぎや四重極ゆらぎなどが考えられる)が寄与していると考えられている物質である。このCeIrIn5に対して、後付けで磁性の効果(InサイトにCdを一部置換)を加えたら超伝導にどういう影響が出るかを調べた。その結果、Tcが大きく上昇することが分かった。ピュアのCeIrIn5では最大Tcが0.9Kに対して、CdドープされたCeIrIn5(Cd濃度: 5%)では1.25Kとなり、不純物が添加されている状態にも関わらず、およそ40%も上昇したことになる。今回の成果は、超伝導発現に対して二つの相互作用がうまく協調できうることを示しており、今後より高いTcを持つ超伝導体(理想的には室温超伝導)の開発もしくは実現に貢献できるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、重い電子系における超伝導メカニズムの解明につながるような新しい知見を得ることが一つの目的であり、平成25年度までの成果としては、反強磁性スピンゆらぎ以外の寄与を示唆する結果を核磁気共鳴法を用いていくつか観測することができている。代表的なのがCeCoIn5の高圧領域における超伝導であり、もうひとつはCeIrIn5の超伝導である。CeCoIn5の方は、量子臨界点近傍に超伝導が発現することから、これまで反強磁性スピンゆらぎによる超伝導であると広く信じられてきた物質である。これに対して、その他の寄与も考慮する必要性を提起することができたのは非常に重要なことであり、本研究課題が順調に進展していることを示している。また、CeIrIn5の方では、 少なくとも二つの異なる相互作用がうまく協調することによって、より高いTcを生み出す可能性を示す結果を核磁気共鳴法(本研究課題の実験手法)で得ることができており、室温超伝導実現に向けた一つの手法となりうる成果である。したがって、この結果は超伝導の理論研究を促進させるもので、超伝導の研究分野をさらに広く開拓させるものでもある。現状でも十分順調に進んんでいるが、超伝導を発現させる新しいメカニズムと磁性の分離がかなり難しく、議論を難しくさせている面があるのは否めない。今後、その点に関して解消できる成果が得られれれば、計画以上に進展していると判断してもよいだろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
重い電子系化合物CeIrIn5系では、やはり超伝導を生み出す新しい相互作用(価数ゆらぎ、四重極ゆらぎ、、、?)と反強磁性スピンゆらぎの分離が重要となる。つまり、新しい相互作用が超伝導を生み出している可能性が非常に高いのは間違いないが、反強磁性スピンゆらぎの影響を排除するというのがかなり困難な状況である。そのような中、InサイトにSnドープした試料を用いると、反強磁性スピンゆらぎの影響を極力無視できる環境を実現できるかもしれないことが分かった。今後は、Snドープ試料を用いることで反強磁性相を完全に消失させ、超伝導が反強磁性相から完全に分離して単独で発現することを確認することで、反強磁性スピンゆらぎ起源ではない超伝導であることをより明確にしたいと考えている。また、平成25年度まではあまり進めることのできなかったCeRhIn5の反強磁性と超伝導の共存現象のテーマに対しても取り組む予定である。このテーマでは特に不整合反強磁性と超伝導が共存しうるかどうかという大きな難問に注目しており、単結晶試料を用いた圧力下NQR測定でこの問題に取り組んでいきたいと考えている。この実験では高精度測定が要求されるため単結晶を用いる必要性があり、信号強度が非常に小さくなるため、測定自体が非常に困難ものになる。非常に重要で興味深いテーマではあるが、他の研究グループでは手が出しづらく、我々のグループしか解決できないテーマだと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
いくつかの極低温における測定が本研究課題の最終年度に回されることになったため、 極低温領域にも用いられる高精度温度センサー(RuO2温度センサー)の購入予定が最終年年度になったためである。また、極低温域の測定に伴う専用の圧力セルの設計・購入も最終年度になる予定で、主には以上の2つが重なったため次年度使用する助成金が必要になった。 極低温領域にも用いられる高精度温度センサー(RuO2温度センサー)の場合、個人で温度較正するのはかなり難しく業者に温度較正もしてもらう必要があるため、比較的購入金額が高くなり40万円程度と見積もられる。また、新しい設計の圧力セルも20万円程度になる見込みである。残りは、学会発表の旅費や論文発表等の費用に使用する予定である。
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