研究課題
基盤研究(C)
幾何学的フラストレーションを内包し、電荷・軌道のゆらぎが大きな一次元三角格子系の新規物質のCaFe2O4、CaMn2O4型構造を取る物質系を研究した。これらの系における電子の電荷・スピン・軌道の多自由度の秩序が生み出す新奇な電荷・軌道整列状態の電子状態を解明し、更にキャリアドーピングにより電荷・軌道秩序を融解させ、スピンフラストレーションが復活する量子臨界相を創製することが本研究の目的である。当該年度では、主にCaV2O4、CaMn2O4の単結晶育成と、Caを欠損させることによるホールドープを試みた。まず、母物質に関してはFZ法により大型の単結晶試料の育成に成功した。一方、Caの欠損はCaV2O4では20%程度までの欠損量までは可能であることが判明した。しかし、CaMn2O4では非常に微量しかCaを欠損させることができず、本系におけるキャリアドーピングの手法としてCa欠損は適切ではないことが判明した。放射光X線を用いて、作成したCaV2O4の単結晶の構造解析を行ったところ、150K付近で軌道秩序に伴う斜方晶から単斜晶への構造相転移が観測された。この構造相転移温度で電気抵抗率に顕著な異常が観測された。この結果は軌道秩序に伴い電子構造の変化が生じていることを示している。一方、反強磁性転移はより低温の50K近傍で生じている。Caの欠損を入れたCa1-xV2O4では、欠損量xを変化させても磁気相転移温度はあまり変化せず、一方、軌道秩序を伴う構造相転移温度はx=0.2において100Kまで下がることが判明した。これはキャリアドーピングにより局在していた電子が遍歴的になり、軌道秩序が不安定化していることを示唆している。また、この結果はCaV2O4ではキャリアドーピングにより軌道秩序を抑制し、電子自由度のゆらぎによる異常な金属状態を実現できる可能性があることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
当該年度では、一次元三角格子系のCaFe2O4、CaMn2O4型構造を取る幾つかの物質系におけるキャリアドーピングの可能性を探ること、また単結晶育成の育成法を確立することを目標としていた。一方、物性測定面では輸送現象、磁化、放射光X線散乱による構造解析を行い、本物質系の結晶構造、電子状態を解明することを目的としていた。キャリアドーピングに関しては、CaV2O4とCaMn2O4におけるCa欠損によるキャリアドーピングの可否を明らかにでき、特にCaV2O4へのCa欠損が可能であることは、研究を進展させていく上で、大きな成果と言える。ただ、他の手法、たとえばCaサイトへのY置換、遷移金属サイトへのCr置換などの可能性は、まだ明らかにできておらず、これらは次年度の課題である。単結晶の育成という面では、CaV2O4とCaMn2O4においてFZ法による大型単結晶の育成法を確立できた。これは今後の物性測定、特に光学測定を行う上で非常に重要である。物性測定面ではCaV2O4の軌道秩序を伴う構造相転移と、電気抵抗率の異常が密接に関連していることが明らかとなり、本系の軌道秩序の発生に伴う電子構造の変化が観測できた点に関しては当初の目的を達成できている。また、Caを欠損させることによるホールドープにより、軌道秩序が抑制されることが明らかになった点は、今後、電子自由度のゆらぎの大きな量子臨界相の探索をするうえで大きな進展であり、当初の目的を達成している。
次年度以降は、まず初年度に育成したCaV2O4とCaMn2O4に単結晶試料を用いて反射分光測定を行う。研究対象は一次元的な結晶構造を持ち、秩序相では軌道の延びた方向が一次元鎖方向で、隣接サイト間の電子の遷移は極めて異方的となり、モットギャップ遷移が異方的になると期待できる。また、その異方性から軌道秩序に伴う各軌道の占有率の違いや、全体的な電子構造を明らかにする。Ca欠損によりホールドープが可能であるCa1-xV2O4に関しては、FZ法による単結晶の育成を行い、母物質と同様に放射光X線を用いての結晶構造解析を行う。これにより、Caの欠損量とともに軌道秩序が抑制されることを明らかにする。また、光学反射率の測定も行い、その異方性の測定などから軌道秩序の抑制に伴う電子状態の変化や、導入された遍歴キャリアの異方性などの情報を得る。これらの研究と並行して、他の一次元三角格子系の候補物質であるYV4O8などの単結晶育成法を確立する。本系では新規な電荷・軌道・スピン秩序が発生しているのではないかと期待され、電子自由度の秩序に関して、新規な現象を発見できるのではないかと期待している。また、CaV2O4、CaMn2O4とこのYV4O8などへ、キャリアドーピングが可能な元素置換効果を探索する。これにより、電荷・軌道・スピン秩序の融解に伴い、本系が本質的に内包しているスピンフラストレーションが復活し、更に他の電子自由度である電荷・軌道のゆらぎの複合効果による新しい量子臨界性の探索を行う。
研究次年度は初年度に引き続き、物質合成の面では様々な一次元三角格子系へのキャリアドーピングを試みる。更に、これらの物質系の単結晶試料の育成を行う。これらは本研究の中核となる部分で、研究費の多くは試料作製のための試薬、雰囲気調整ガスなどの購入に使用する。また、作製した試料の評価の一環として組成分析を行うため、研究費を使用する。研究次年度も試料の評価や電子的、磁気的な性質を解明するために、低温での輸送現象、磁化測定を行う。また、ヘリウムフロー型のクライオスタットを用いての低温での光学反射率測定を行う。これらの試料冷却には液体ヘリウムが必要不可欠で、液体ヘリウムなどの寒剤の購入のために研究費を使用する。結晶構造物性、電荷・軌道秩序のパターンと秩序に伴う電子構造の解明のために、放射光X線による単結晶・多結晶構造解析、共鳴X線散乱や軟X線散乱実験を高エネルギー加速器研究機構で実施する。これらの実験は本研究課題の遂行のために必要で、高エネルギー加速器研究機構への旅費として、研究費を使用する。研究期間を通して、成果発表を日本物理学会やSCES2013などの国際会議で行う。これらの成果発表のために旅費として研究費の一部を使用する。以上の通り、主に試料作成のための消耗品費、物性測定のための寒剤代、外部施設での実験と成果報告のための出張費用として研究費を使用する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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