今年度は,一次元ディラック電子系に対する超伝導近接効果の影響について考察した.特に局所状態密度の振る舞いを解析し,一編の論文にまとめた.一次元系では電子間相互作用の影響が重要であり,ディラック電子系はヘリカルな朝永-Luttinger液体(TLL)理論によって記述される.近接効果の影響を取り込んだTLL理論を用いて,局所状態密度をエネルギーの関数として解析的に求めた.局所状態密度はデルタ関数型のスパイク列によって表され,各スパイクの高さが電子間相互作用の影響により変調されることを見出した.特に超伝導電極の周辺では,近接効果と相互作用効果の協調により低エネルギー領域の状態密度が顕著に増大することを明らかにした.さらに関連する問題として,弱いトポロジカル絶縁体表面の二次元ディラック電子系の振る舞いに関して二編の論文を発表した.一方は,三次元の弱いトポロジカル絶縁体に対する微視的モデルから出発し,ディラック電子系に対する有効二次元モデルを導出したものである.他方は,この有効二次元モデルを用いて,乱れを含むディラック電子系の局在問題を解析したものである. 研究期間(三年間)の間に,グラフェン中のディラック電子に対するジョセフソン効果を記述する準古典理論を完成させ,また一般的な二次元ディラック電子系に対する超伝導近接効果を記述する一般論も構築することが出来た.これらの理論的枠組はディラック電子系と超伝導体の結合の強さを特徴づけるパラメータを含んでおり,従来の現象論的なモデルから大きく進歩している.上述のように,一次元ディラック電子系に対する近接効果についても成果を挙げることが出来た.このように重要と考えていた課題はほぼ満足な形で達成でき,当初の予定にはなかったトポロジカル絶縁体表面のディラック電子系に関しても成果を挙げることが出来た.
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