研究概要 |
2009年に発見された近藤半導体CeT2Al10(T=Ru,Os,Fe)はT=Ru,Osで反強磁性秩序を示すことが明らかにされ,盛んに研究されている。従来の近藤半導体と異なり磁気秩序を示す近藤半導体であり,その磁気秩序は非常に奇妙な性質を持っているが,そのミクロな起源・機構は未解明である。この一年間における研究実績は以下の通りである。 ①CeRu2Al10のRuサイトを少量(3%)のRhで置換すると,困難軸のc方向を向いていた反強磁性モーメントが磁化容易軸のa方向を向くようになることを磁化率,強磁場磁化曲線の測定から明らかにし,H//aのもとでスピンフロップ転移を観測し,強磁場下での磁気相図を完成させた。この結果に基づき,強いa軸方向のc-f混成が弱められ,反強磁性モーメントがa方向を向くようになった,と結論した。 ②CeRu2AL10ではc軸を向いていた反強磁性モーメントが,H//cのもとでスピンフロップ転移を起こし磁化最困難軸のb方向を向くこと,La置換でb軸方向を向くこと,さらにLa置換でb軸を向いた反強磁性モーメントが圧力をかけることにより,容易にc軸方向を向くことを発見した。このような異常な磁気異方性は通常のクーロン相互作用では説明できず,異方的はc-f混成が起源である,と結論した。 ③反強磁性体GdT2Al10(T=Ru,Fe)の磁気的性質を調べた。T=Ruは反強磁性転移温度と常磁性状態への臨界磁場が同程度の普通の反強磁性体であるが,T=Feでは,反強磁性転移温度がT=Ruのものとほとんど同じであるにもかかわらず,臨界磁場がT=Ruの半分程度であるという異常を見出した。Gd間の交換相互作用が温度に依存し,温度低下とともに弱くなること仮定し分子場計算を行い,これらの異常の起源がFeのもつ弱い磁気的性質による,と結論した。 ④LLBのMignotらとの共同研究としてCeFe2Al10の非弾性中性子散乱実験を行い,分散をもつ磁気励起を観測し,スピンギャップの起源を議論した。
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