研究課題/領域番号 |
24540377
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浴野 稔一 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40185103)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | STM/STS / トンネル分光 / 層状超伝導 / ZrNCl / FeSe / 超伝導エネルギーギャップ |
研究概要 |
層状化合物超伝導体ZrNClとFeSeTeの超伝導局所電子状態を走査トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)により測定し、清浄界面をもつ低温破断トンネル接合(BJTS)による超伝導エネルギーギャップの観測結果と比較検討した。試料について,FeSeTeは単結晶を用いZrNClは微細結晶片(~10umx10um)を用いた。Clを約30%欠損させてTc = 13K の超伝導を発現させたZrNCl_0.7におけるSTM測定では、温度4.9Kにおいて格子間隔0.36nmの正三角形原子配列構造を観測した。これは粉末x回折による格子定数に等しい。STS測定による局所トンネルスペクトルはブロードなギャップ構造を持ち、ギャップの大きさも温度4.9Kで8meV~30meVと幅広く分布している。最も頻繁に観測されたギャップエネルギー20meVは、大変興味深いことに、我々が以前予備的に測定したTc = 24 KのHfNClの示すギャップと粗同じである事が分かった。しかし温度変化の測定からはZrNClのもつTc=13Kで消失する事が分かった。ギャップ構造は準粒子の寿命効果を取り入れたBCS関数で表わされるが、寿命パラメータにはギャップの大きさとの相関は見られない。最頻出の超伝導ギャップとTcとの比は約10となり、これはBCS理論値の3倍に達し、非常に強結合的である。これは、BJTSによる我々の以前の測定でも等しい結果を得ており本研究により再現性を確立した。すなわち、ZrNClの異常な超伝導遺伝子状態の存在を原子スケールで直接明らかにした。 FeSeTeのSTM測定では結晶表面で観測されたSe原子とTe原子の存在比がバルク分析結果と一致する事を見出した。このことによりナノスケールでの表面事象がバルクの性質を反映している事を初めて直接示した。STSとBJTSでの超伝導電子状態の検出限界の比較検討を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要で述べた通り、層状化合物ZrNCl超伝導の異常な局所電子状態(強結合超伝導性)の存在を、2つの異なる直接測定手段(走査トンネル分光と低温破断トンネル分光)により再現性良く観測し、これが本質的なものであることを示した。これは起源の解明にとって有用な情報となる。
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今後の研究の推進方策 |
ZrNClにおける局所電子状態の異常性(エネルギーが30meV=350Kにまで及ぶ幅広いギャップの分布)が、バルクのTc以上で発現するナノスケール高温超伝導性を反映しているのか、あるいは、銅酸化物高温超伝導で見られる様な超伝導性と拮抗する擬ギャップと同質な層状物質に特有なフェルミ面効果であるのか、等を詳細に調べる。 FeSeTeにおける超伝導電子状態をSTSで詳しく調べ、BJTSデータと比較検討する。また、STSとBJTSで観測されている約300meVの擬ギャップ構造の起源の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
STM装置周辺機器(STMチップ、計測エレクトロニクス)の維持管理費、海外旅費(STMおよび超伝導国際会議参加発表)、国内旅費(物理学会参加発表)、謝金(大学院生)、出版費に使用する予定である。
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