研究課題/領域番号 |
24540377
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浴野 稔一 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40185103)
|
キーワード | 超伝導 / エネルギーギャップ / トンネル分光 / STM/STS / 破断接合 / 層状窒化物 / 鉄系超伝導物質 |
研究概要 |
層状窒化物MNCl(M=Ti,Zr,Hf)は超伝導臨界温度Tcの最高が約26K(Hf)と比較的高く、また様々な実験結果から、その超伝導機構が従来の規範BCS理論によるものとは異なるのではないかとして注目されている。本研究では、これらの物質の電子状態をトンネル分光法(走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)及び破断接合法(BREAK JUNCTION))により微視的に解明する事を目指している。電子状態を原子レベルで直接観測できるSTM/STSによる測定の結果、以下のような興味深い事実が明らかとなった。 最高のTcを持つβ形HfNClにおいては、これまでの実験で、銅酸化物高温超伝導体と同じくBCS理論値の3倍以上の強結合超伝導エネルギーギャップ構造を観測している。この異常性に付随して、銅酸化物と同様のいわゆる擬ギャップ構造(Tcを超えた高温で存在するギャップ様構造)が存在するのではないかとの仮定のもとにその観測を目指していた。本研究課題を遂行する中で、当初の目論み通りに、このような擬ギャップ構造の存在を示すデータを得る事が出来た。詳細については現在解析中であるが、擬ギャップ構造の特性エネルギーは温度50Kにおいて約60meVであり、超伝導ギャップエネルギーの数倍の大きさを持つ。さらに高温ではギャップ構造はぼやけてしまうが、超伝導転移直上の温度領域では昇温とともに擬ギャップエネルギーが回復傾向にあり、銅酸化物の擬ギャップに関する我々の従来の観測結果に合致する。すなわち超伝導及び擬ギャップの形成相互作用は互いに拮抗するものである。 また、層状窒化物においても、銅酸化物と同様の電子状態のナノスケール不均一性を観測している。さらに、TcがHfNClより10Kほど低いZrNClではより強い不均一性を示すとともに、超伝導ギャップの平均値はHfNClとほぼ同じであるという結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は物質の範疇を拡げて測定し、超伝導状態の普遍的な性質を調べる事をまず計画していたが、新しく合成した試料のバルク特性がこれ迄と若干異なるので、それを乗り越えてナノ電子状態の再現性を確かめる実験を行なう事が必要となり、これに時間を割いている。しかし、現存試料に絞って集中的に実験を行なった事により、層状窒化物の擬ギャップ状態の観測を行なう事が出来た。この結果で遅れている部分を補うという形になると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
層状窒化物のうち、β形構造と結晶対称性の異なるα形TiNClにおいて、超伝導転移温度は14Kであり比較的低いが、これまでの測定から、極めて強い電子状態の不均一性および異常に大きなエネルギースケールの超伝導ギャップをもつという観測結果を得ている。このことを、STM/STSを用いて詳細に調べ、局所電子状態の異常性を明らかにする。それと同時に、STSを遥かに凌ぐ分解能を持つbreak junction法(BJTS)により超伝導ギャップの精密測定を行なう。これらの結果をβ形のものと比較検討し、α形の持つ電子状態の異常性を明らかにして、より高い超伝導転移温度を持つ可能性を追求する。 さらに、もうひとつの新規高温超伝導体族である鉄系超伝導体についても、特に比較的単純な構造を持つFeSeTeの単結晶を用いて、その電子状態の特徴を明らかにする。
|