研究実績の概要 |
層状窒化物の低温走査(LT-UHV-STM/STS)及び破断トンネル分光(BJTS)による微視研究を行った。 α-KxTiNClにおいては、STSにより超伝導ギャップの顕著なナノスケール不均一性を見出し、BJTSではこれを支持するV字形超伝導ギャップ構造を初めて捉えた。この不均一性は体積分率100%でも観測され、本質的である事を示した。異形物質β-HfNClにおいては、均質な電子状態分布を示す結果が得られている。α型の矩形格子とβ型三角格子でのこの顕著な違いについては、β型では2次元的な電子状態を示しα型では3次元的である、というインターカレーションのバルク実験で得られている結果と関連している可能性がある。超伝導ギャップの大きさに関しては、臨界温度で規格化したギャップがBCS規範理論値の数倍(β型)から十数倍(α型)程度である事を示した。これは銅酸化物高温超伝導の特性に近く、超伝導ギャップという最も基本的な物理量に関する異常性を定量的に明らかにした。 さらに、臨界温度が25Kのβ-HfNClと14Kのβ-ZrNClにおいて、臨界温度に関わらず超伝導ギャップの平均値はほぼ等しい事を明らかにした。また、超伝導ギャップの数倍の大きさを持つ擬ギャップの存在を見出した。温度変化の測定より、これらのギャップ形成は互いに拮抗することを示した。これは酸化銅高温超伝導の場合と同じである。 層状窒化物と同様な層状構造を持つ鉄系超伝導体Fe(Se,Te)において、STMによりSe,Te原子の表面分布組成がバルク組成と一致する事を示した。また、BJTSにより、超伝導ギャップ及びこれに付随する擬ギャップ状態を見出し、特異な電子状態の証拠を捉えた。 このように、本研究では層状超伝導における異常な電子状態を明らかにし高温超伝導との類似性を具体的に指摘しつつ、更なる解明を目指して現在も実験を遂行している。
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