研究課題/領域番号 |
24540380
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
山田 重樹 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 准教授 (50312822)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 電荷整列 / 軌道整列 / 交差相関 / 磁気秩序 |
研究概要 |
本研究課題について平成24年度は、まず申請のもとになったSmBaMn2O6の物性測定及び解析を行った。それにより、反強磁性相転移温度がこれまで報告されている値とは異なることを明らかにした。この内容は日本物理学会の欧文誌に投稿し、すでに掲載されている。次に、TbBaMn2O6及びNdBaMn2O6の単結晶体の作成を試みた。その結果、TbBaMn2O6の単結晶体の作成に成功し、その磁性と誘電性の測定を行った。これらの測定により、本物質は広い温度範囲でTbの1イオン異方性に起因する磁気異方性が観測され、さらに20K近傍でこのTbの磁気モーメントが反強磁性的に整列することが分かった。また、180K近傍の磁気モーメントが反強磁性的に整列することも観測した。申請書においても述べているようにSmBaMn2O6ではこの温度領域で電荷の再配列が観測されいる。そこで、TbBaMn2O6においても電荷の整列状態を観測するため、現在は放射光X線回折測定を用いた精密な結晶構造解析を試みているところである。NdBaMn2O6はNdとBaのイオン半径がとても近いことから、結晶成長中の雰囲気がNdとBaの配列状態に敏感に影響することが分かった。そのため、結晶の質の向上させるのに困難を極めた。しかし、雰囲気を厳密に制御しながら何度も結晶育成を試みることで、結晶成長条件がかなり絞れてきている。現時点でも定性的には、焼結体で以前に報告されているものと同じ物性が測定されていため、現在はこの試料を用いて異方性などの大まかな物性の測定に着手しつつ並行して試料作成条件を探っているところである。本物質に関しても、十分な質の試料が作成できたところで、精密な結晶構造解析を行う予定である。また、これらの試料の作成条件を基にして他の希土類元素に置換した試料の作成も行う、すでにYBaMn2O6の試料の作成に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、REBaMn2O6(REは希土類)のREをさまざまな希土類元素に置換した単結晶を作成し、その磁性、誘電性、結晶構造を調べるというものである。このような物質は一部元素が変わっただけでも試料の作成条件が大きく異なることが多々あり、この物質群もその一つである。そのため、試料の作成は困難を極めたが、すでに、TbBaMn2O6の作成には成功し、NdBaMn2O6に関してもほぼ試料の作成条件が絞れている状況にある。また、本申請課題を立案するきっかけとなったSmBaMn2O6に関しても、測定結果の考察や精密な結晶構造解析が進み500Kから10Kの温度範囲で温度の変化によりさまざまな構造相転移や電荷・軌道秩序の転移が現れることを明らかにすることができた。これらの研究成果を考えると、現時点まではほぼ順調に研究が進展しているといえる。しかし、去年度の夏ごろより深刻になり始めた世界的なヘリウム供給不足により、低温物性測定に必要な液体ヘリウムの使用が厳しく制限されることとなり、研究の遂行に支障が出始めている。去年度までは試料の育成条件を探すことが主な課題であったが、本年度はそれらの試料を用いた物性測定が主となることから、この影響はさらに大きくなると考えられる。限られたマシンタイムの中での測定となるが、実験計画を綿密にたて、さらに本補助金を有効に利用することでそれらの影響を最小限にとどめていく努力を払っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
上記に記したように、現時点ではおおむね当初の計画通りに研究を進めることができていることから、当初考えていたの計画をそのまま進めることを考えている。具体的には、まずTbBaMn2O6の結晶構造解析を行う。すでに25年度に入り、SPring-8での放射光X線を用いたX線回折測定を、研究協力者である東京大学の有馬教授と共同で実施している。さらに十分な測定を行うことで、精密な結晶構造解析を行う予定である。NdBaMn2O6に関しては、定性的には多結晶体で報告されているものと同じような物性が観測されるような結果を得ている。定量的な不一致は、単結晶体のほうに多少NdとBaの配列構造に乱れがあるためであると考えている。このような物質であっても、異方性などの大まかな性質を知ることは十分可能であると考えているので、物性測定を行いながら並行してより質の高い試料の作成条件の探索を行う予定である。この試料に関しても質の高い試料が作成され次第、結晶構造解析を行う予定である。また、誘電性の測定にはさらに絶縁性の高い物質が必要であると考えている。そこで、さらにイオン半径の小さな希土類で置換した系についても作成を試みる予定である。現在、本物質群で最も絶縁性が高いと考えられるYBaMn2O6の単結晶体の作成に着手しているが、本物質群でこれまで作成に成功した試料と比べて、かなり作成が困難であることから、他の希土類に置換した系についても検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請書の提出段階においては、本研究費で誘電率測定装置を購入する予定であった。しかし、上で述べたように去年度の夏ごろより起きている世界的なヘリウム供給不足により液体ヘリウムの価格の高騰が起き、またそもそも手に入らないという事態も起きている。本研究課題において低温での実験は物性測定の一番重要な要素となっているため、液体ヘリウムの供給の動向が研究課題の遂行に大きな影響を及ぼしている。誘電率の測定には、本学で所有している旧型のインピーダンスアナライザーで最低限の測定が可能であったため、補助金が基金化さえていることを有効に利用し、去年度使用予定であった補助金の使用を抑え液体ヘリウムの価格が高騰した際に対応できるようにした。幸い、なるべく効率的に実験を行い液体ヘリウムの使用を抑えることで、現時点までの測定課題の遂行には支障が出ていない。しかし、今年度は試料の作成から物性の測定へ研究の軸足が移ることもあり研究の遂行に関しては問題が出る可能性がある。そこで、液体ヘリウムの供給状況に注視しながら、場合によっては本助成金の一部を液体ヘリウムを使用しない冷凍機などの用いた低温測定システムの構築にあてる、または低温測定装置の共同利用センターへの申請を行いそこへの旅費にあてるなどの柔軟な対応を行うことで、低温物性測定に支障が出ないような工夫していく予定である。また、今年度は結晶構造を決定するための測定も本格的に始動することを考えているのでSPring-8 への旅費などにも使用する予定である。また、これまでに明らかになった研究成果の学会での報告を行うための経費にも使用を予定している。
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