本研究課題では二重ペロブスカイト型マンガン酸化物の単結晶体の作製および、その誘電性と磁性の詳細な測定を行ってきた。この研究の第一の目標は、Sm よりもイオン半径の小さな希土類に対するすべての本物質群の単結晶体の作製であったが、最終年度においてこの目標を達成することが出来た。さらに、作製が困難である Sm よりもイオン半径の大きな希土類元素である Nd を用いた NdBaMn2O6 の単結晶体の作製にも成功している。この物質に関しては、電荷整列相が存在しないため、当初は強誘電相は存在しないと考えていたが、作製した単結晶体を用いた結晶構造解析により、低温領域で強誘電に起因することを示唆する、空間反転対称性の破れを発見した。これは、本研究課題において本物質群の単結晶体の作製技術を確立したことによる成果である。さらに、Sm よりもイオン半径の小さな領域においては系統的な磁性と電気伝導特性の測定により多結晶体の研究により得られていた電気・磁気相図を修正することに成功した。特に、反強磁性相転移温度は、多結晶体の結果とは異なり、イオン半径の減少に伴い単調に上昇することが分かった。この研究の中で、一番イオン半径の小さな YBaMn2O6 では、反強磁性相転移温度は電荷の再配列温度よりも高温側にあるが、実際に反強磁性状態となるには、電荷の再配列が必要であるため、電荷の再配列と反強磁性整列が同時に起きることを発見した。またこの研究課題でもっとも注目をしていた誘電特性に関しては、一番イオン半径の小さな YBaMn2O6 においても、電気抵抗が誘電分極を測定するには低すぎたため、分極率の測定は現時点では成功していない。しかし、本研究費により構築した、低温下誘電率測定システムにより SmBaMn2O6 で低温の磁気転移領域で誘電率の温度依存性に異常があることを観測することに成功した。
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