研究概要 |
EuNi2(Si1-xGex)2 (x = 0, 0.70, 0.79, 0.82, 1) 純良結晶試料を育成し、X線回折および帯磁率の測定から、それぞれ結晶性と転移温度を評価し、電子状態の観測に耐えうる試料であることを確認した。x = 0.75については帯磁率中に強磁性不純物の混入を示唆する構造が観測されたため、次年度に再度育成することとした。 育成されたEuNi2(Si1-xGex)2 (x = 0, 0.70, 0.79, 0.82, 1) 純良結晶試料に対して硬X線光電子スペクトルの温度依存性を観測した。x = 0, 1を除く各xのEu 3d内殻電子状態について、価数転移温度の前後で2価と3価成分のスペクトル強度が鋭く反転する様子を観測した。特にx = 0.79では、1次の価数転移を反映した鋭い温度変化を観測した。加えて、価数転移の前後、特に高温側で3価のEu 3dスペクトル形状がアトミックモデルから予想される形状と大きく異なることが判明し、これまでと異なるアプローチによるスペクトル解析が必修である事を明らかにした。また、価数転移に伴うNi 2p, Ge 2p, Si 1s内殻ピークシフトを観測し、価数転移時の伝導電子による電荷移動の存在を示す足がかりとなるデータを得た。なお、x = 0.79, 0.82は測定温度点数が不十分であることから、これらは次年度に再度、測定を行う予定である。 価数転移に伴うEu 3dスペクトルの形状変化は、3価のEu 4f電子と伝導電子間の混成相互作用および2価と3価のEu間の異方的混成を考慮した不純物アンダーソンモデルにより説明出来る。本年度は、このモデルに熱励起を取り込み、非現象論的にスペクトル形状の温度変化を説明できるように拡張がなされた。次年度以降、実際にスペクトル計算に取り組む予定である。
|