研究課題/領域番号 |
24540381
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
三村 功次郎 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40305652)
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研究分担者 |
光田 暁弘 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20334708)
魚住 孝幸 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80295724)
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キーワード | 強相関電子系 / 価数転移 / 物性実験 / 物性理論 / 光物性 |
研究概要 |
前年度に引き続きEuNi2(Si1-xGex)2純良結晶試料の育成・評価を行った。今年度は、昨年度に酸素による汚染等が認められた試料のうち、1次転移を示すx = 0.82の純良結晶を育成し、この試料を用いて硬X線光電子スペクトルの詳細な温度依存性を観測した。同様に、前年度に育成済みのx = 0.70, 0.79純良結晶試料に対しても硬X線光電子スペクトルの再現性の確認ならびに詳細な温度依存性の観測を行った。 得られたEu 3d硬X線光電子スペクトルは、2価と3価成分の強度比が各xの転移温度の前後で大きく逆転する。この強度変化は、Euの価数転移を反映したものである。本研究において重要なのは、温度変化に伴うスペクトル強度の変化のみならず、3価のEu 3d多重項構造の形状が転移の前後で大きく変化することを観測した点である。 価数転移に伴って生じる、これらEu 3dスペクトル強度および形状の変化は、不純物アンダーソンモデルによる解析により見事に再現された。この解析では、Eu 3dスペクトルの価数転移に伴う変化をEu 4f電子と伝導電子間の混成強度Vcfおよび電荷移動エネルギーΔの組み合わせにより再現できる。このことは、Eu化合物の温度誘起価数転移を理解するうえで、多体効果の正確な取り扱いが本質的に重要であることを示唆している。さらに一連のスペクトル解析から、温度に対して価数安定, 連続転移, 1次転移を示す物質の順にVcfが大きくなる、つまり、Vcfが価数転移の仕様を司る重要なパラメータであることを明らかにした。 これらの結果に加えて、熱励起を考慮した不純物アンダーソンモデルの解析により、スペクトル形状をより正確に再現できることを確認した。今後、これらの測定・解析を継続していくことで、Eu化合物が示す温度誘起価数転移の起源の完全解明へと至ることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」でも述べたように、試料育成・硬X線光電子スペクトル測定、更には不純物アンダーソンモデルによるスペクトル解析、これら主たる3つの課題は全て順調に進行している。実験の面では、連続的な温度誘起価数転移を示すx = 0.75の試料育成・スペクトル測定が完了すれば、当初目的を完全に達成することができる。理論解析では、熱励起を取り込んだ不純物アンダーソンモデルの有用性を確認するまでに至っているので、最終年度で集中したスペクトル解析を行うことで、Eu化合物が示す温度誘起価数転移の起源を理解する上で重要となる物理パラメータを正確に把握できると期待している。このように本研究は当初見込んだ予定通り進行してきているため、達成度を (2) と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究はここまで順調に進行しており、温度誘起価数転移機構を説明するうえで重要なパラメータがEu 4f電子と伝導電子間の混成強度にあることを明らかにしてきた。1次の温度誘起価数転移を示すEuNi2(Si1-xGex)2に対しては、x = 0.79, 0.82の2種の試料に対して系統性の高いデータが得られた。しかしながら、連続的な温度誘起価数転移を示すEuNi2(Si1-xGex)2については、硬X線光電子スペクトルの観測に至った試料はx = 0.70のみである。そのため、これまでの実験・解析から得た考察を確固たるものにするためには、連続的な温度誘起価数転移を示すEuNi2(Si1-xGex)2の更なるデータ蓄積が不可欠となる。 よって今後は、連続的な温度誘起価数転移を示すx = 0.75に対して試料育成・評価から硬X線光電子分光実験を行い、データの再現性を得ることにより温度誘起価数転移に関する我々の主張をより強固なものにすべく実験・解析を行っていく。 研究実施体制には特に問題は認められないため、これまでの体制 (試料育成・評価、測定・解析、理論的アプローチ) を維持しつつ、上記目標が達成された際は、測定試料を他のEu化合物に拡張していき、より一層のデータ蓄積に務めていくことで、Eu化合物がしめす温度誘起価数転移機構の完全解明へと繋げたい。また、平成26年度は最終年度であるため、研究成果の公表も積極的に推進したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
差額は、旅費の算出ミスにより生じたものである。 通常通り、物品費・旅費の一部として使用する。
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