研究実績の概要 |
電子状態からEu化合物が示す温度誘起価数転移の起源に迫るべく、Ge濃度xにより300 K以下で一次転移, 連続的転移さらに2価, 3価の安定状態を制御できるEuNi2(Si1-xGex)2純良結晶試料を育成し、硬X線光電子分光によりバルク電子状態の温度依存性を観測した。 得られたEu 3d内殻準位の硬X線光電子スペクトルは、価数変化を反映して各xの転移温度の前後で2価と3価成分の強度が大きく反転する。また新たに、3価のEu 3dスペクトル形状が転移の前後で大きく変化することが分かった。 価数転移に伴って生じるEu 3dスペクトル強度および形状の変化を、不純物アンダーソンモデルに基づいた理論解析により再現した。このモデルによると、Eu 3dスペクトルの価数転移に伴う変化は、Eu 4f電子と伝導電子間の混成強度Vcfおよび電荷移動エネルギーΔの組み合わせにより再現できる。つまり、Eu化合物の温度誘起価数転移を理解する上で、多体相互作用が重要な役割を果たしていることを示唆している。さらにスペクトルをより正確に再現する上で、Eu 4f電子の熱励起の効果を考慮することが極めて重要であることが本研究によって初めて明らかになった。3価のEu多重項 (J = 0, 1, 2, 3) 間のエネルギー差が電荷移動にエネルギーΔの変化に伴って転移前後で変化する際、多重項間のエネルギー差が非常に小さくなる高温状態ではEu 4f電子の熱励起の影響が無視できなくなる。そのため、転移温度よりも高温側の3価Eu 3dスペクトル形状が特に大きく変化するのである。 加えて、Ge濃度xに対する一連の実験・解析から、Eu価数が温度に対して価数安定, 一次転移, 連続転移を示す順にVcfの値が大きくなることが分かった。つまり、VcfがEu化合物の温度誘起価数転移に重要な役割を果たすことを示唆する結論を得るに至った。
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